こういった場は不慣れだが、必要事項として語らせていただこう。
 おれこと、牧野政哉は県内でも目立たない学校、柚木川高校に通う二年。この学校の特徴といえば男子校というぐらいの学校自体には何も特徴がない学校だ。
 そんなおれも学校同様目立つような人間ではなく、至って普通の巨乳好きよりも足フェチな青少年だ。まあ、女の子に興味津々の青少年だ。


 だろ?
 そうだったよな、裕人。
 おれってそういう、普通で、ありきたりだった筈だよな?


 目の前にいるのはニヤニヤ笑っている男がいる。傍から見れば絡まれている構図にしか見えないだろう。一対一ならおれだって一応構える。一方的なカツアゲも、暴力も嫌だから。16年送った人生、それなりに喧嘩は経験済みだ。平々凡々って言ってもやっぱり普通のオトコノコだから、おれだって一方的な搾取はくだらないプライドに障る。
 でも、確かに今も一対一だけど、相手が「志岐伊織」の時点で終わりじゃん。
 志岐伊織。同じ柚木川高校に通う一個上の三年生。そして、柚木川高校唯一にして最大の特徴である男だ。
 おれとはまた違う印象の烏を連想しそうな黒髪に、情熱ではなく血飛沫を連想させる前髪の赤いメッシュ。ド派手とまではいかないが、その見た目で理解できる存在感。180近くある圧迫感のある身長。モデルかよ。なんてツッコミを入れてしまえる美形。
 切れ長の瞳はひと睨みで人間殺しそうだし、身につけているアクセサリーはどう見ても普通の高校生じゃ買えないものだ。男子校にいるくせに、女に貢がせてるなんて話は普通に聞くし、暴走族の頭だって噂もあるし、とりあえず関わりたくない、関わってはいけない男。


 そんな志岐伊織は、柚木川だけではなく近隣高校に名を馳せた――不良だったりする。


 ぐっばい、おれの青春。うぇるかむ、地獄の痛覚。殴られたら鼻の骨、顎の骨、どこを殴られても陥没骨折してしまいそうだ。これがまだ、すれ違って肩でもぶつかるなんて王道的な物語で始まってればおれだって最初からこんな現実逃避は長々としないさ。
 意味もなく、脈略もなく、おれはこの男に…ああ、いや。正確には靴箱の中にあった手紙の主に呼び出されたのだから。「放課後裏庭で」正直に言えば、果たし状と一瞬思った。だってこの学校は男子校だ。そんな風に思いながらノコノコついて来てしまうあたり、おれはアレだと思うが。

「二年の牧野政哉な……かっけぇ名前じゃん」
「あ、あざーっす……」
「おまえさ、オレに絡まれてる理由分かる?」

 カツアゲなんじゃね?と、いいかけた言葉は寿命大事の合言葉と共に飲み込んだ。理由なんてわかる筈がない。だって、おれと志岐伊織との共通点なんてないし、踏み込んでいる世界が違う。おれは普通の平々凡々、こいつは不良のドン、ヘッド、頭、頂点。むしろ関わりたくなんかねぇ。

「ま、オレの一方的な理由なんだけどなー」

 美形の不良の笑顔なんて怖いだけだ。おれは16年生きてきて初めてその事実を知った。



top : next