馬鹿じゃん!? おま、どう見てもおれって可愛くないし美人じゃないし、面白味がないし特徴の欠片もねぇ人間だろ! な、なんでこんな悪漢に襲われる女子大生みたいな構図が出来てるんだよマジ怖ェ!
 後輩の和泉がいつ呼んだか知らないが、おれを痛めつけるために用意した人間はどこかで見たことある奴ばかりだった。志岐先輩のような噂に名高い人間じゃないが、関わりたくない。で、名前のあがるメンバーだ。
 和泉ってあいつらと関わりがあるのか? 不意に思うが、そんな余裕もあっという間に消えてしまう。今はそう、とりあえず校舎の中に入って人を見つけるに限る。
 あいつらもそこまではいれば襲ってこれないだろう。掃除の時間で、幸い人間は無数に存在してるんだから。

「うわっ!」
「つーかまえた」
「(足速ェ!)」
「ったく、面倒だからさっさと済ますぞ。和泉がヒス起こす前にな」

 背が高い。大体志岐先輩辺りの身長が五人おれを囲んでいる。なるほど、足が速いわけじゃなくて歩幅が違うんだ。
 首根っこをつかまれ、校舎の壁に押し付けられる。背中を強かに打ちつけられ、喉から潰れた息が零れた。
 喉元を締め付けられる。息が苦しい。掘られる、じゃ、なくて暴力だろこれただの! 痛みで視界が生理的に潤む。真正面にいた男と視線が合えば、ニッと嫌な笑みを向けられた。

「和泉に襲えって言われて実物見たけど、オレ割とこういうのタイプかも」
「おまえマジで雑食だな」
「っふざけんな!」
「こういう気の強そうなの、屈服させる瞬間がいいんだろっ!」

 腹に膝がめり込む。喉の奥からせり上がる酸っぱい感覚がした。唾液が地面に飛散し、腹を抱えこむ姿勢で膝を折る。マジで、入れやがった…! 咽ながら息を整えている頭上では、ゲラゲラ笑う男達の笑い声が振っていた。

「素直に志岐と別れりゃ、ここまでにしてやろうか?」
「だ…れ、が」
「……やっぱ、目がいいなぁお前」

 顎を捕まれ、無理矢理上に向けられる。痛ェよ、くそ。ド派手な頭をしている男を睨みつければ、ニヤニヤ笑っていた周囲の男があきれたような表情を作った。途端、べろりと涙を流していた目元を目の前の男が舐める。

「ひっ」
「志岐センパイの、お相手をつまむのも一興だよな」
「悪趣味だな、相変わらず」

 顔を背けた時、足を払われ地面に押し倒される。おい、これってガチで貞操ってか、処女の危機なんじゃねぇの、これ! 殴られるだけならまだいいが、さすがに無理だ。想像なんてできなかった光景が目の前に広がり真白になる。
 ブレザーのネクタイを外され、ワイシャツのボタンが弾けるほどの勢いで引きちぎられる。春の終わりの少しだけ寒い季節、下に着ていたオレンジのTシャツが捲られた。皮膚がさらされる冷たい感覚に、ぶつぶつと鳥肌が立つ。同時に、さらされる視線に言いようの無い感覚を覚えた。

「はな、せ! ボケ! カス!」
「口悪ぃー」
「触るな!」
「おい、足押さえてろ」
「死ね!!」

 噛み付いてやろうか! そんな勢いと共に暴言を吐き続ければ口の中におれのネクタイが押し込められた。どこのAVだ、どこの! 馬乗りになり、そっと鎖骨辺りに手を触れた男の皮膚の感覚に悲鳴をあげようと思っても、口の中にあるネクタイのせいでそれは無理だった。
 最悪だ。おれ、ここで処女が奪われるのか。女の子よりも先に、男と繋がるのかよ。ありえない、ありえねぇ。なんで、なんで、こんな目に合うんだよ。「大人しくなったな」「おお」奴等の会話が耳に入っても、悔しさしか覚えない。
 先輩が言ってたのはこういうことなのか。心配性とか思ったけど、結構真剣に考えた結果だったんだ。志岐先輩、おれがこういう目にあったって知ったら、どうするんだろ。助けて、くれるのか? あの人は。
 ああ、いや。助けてくれるんだろうな。あの人、なんだかんだで。


「お前ら、オレの牧野にナニしてんだよ」


 すっげぇ、お人好しで、おれの世話、最後まで見てそうだから。



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