電話は無理。怖いじゃん。だから、メール。


『昨日は、すいませんでした』


 簡素で、絵文字に顔文字も使われていないものが素早く送られていく。パタンと、二つ折りの携帯をポケットの中に入れた。
 その後しばらくファミレスで裕人と近況報告をし合い、今度の試合の日程を聞いて分かれた。あれはもう完璧に、来年…ってか、今年にはバスケ部のキャプテンだろう。
 親友の頑張りを目に焼きつけ、駅前で別れる。最早毎度同じ言葉となっている、彼女出来たら報告しろよ! の、言葉に裕人とおれは笑いあった。
 おれはまだまだ出来ないだろうけど、裕人なら即効出来てもおかしくない。ってか、むしろ作らないのは勿体ない。あいつもしかして……好きな子いるのかな。男だったりするのかな。……って、ないか。

 電車に乗り込み、ガタン、ゴトンと揺れる感覚を味わい、特に寄る場所もないから最寄の駅で足を下ろし、真直ぐ家に帰るために足を伸ばせばブーっと、携帯のバイブ機能が働いた。

 裕人だろうか?

 何を心配しているのか、あいつは毎度毎度遊びに行けばこういう風にメールを送ってくる。お前はおれの母親かよ! なんて、毎度思うが最早習慣となったものにツッコミは送ることもない。
 むに。と、ボタンを操作すれば「裕人」ではなく「志岐伊織」の、文字がそこにあった。…………恐怖が画面からにじみ出ることが、まさか本当にあるなんて夢にも思わなかった。

「(え? なに? 死ねとか? 殺すとか?)」

 マジ怖くてちびるわ。恐る恐るメールボックスを開き、メールを確認すれば思わず、ってか、自然に体が止まってしまった。通行人の視線が向かってきたけど、気にもならなかった。
 うわ、なんだこれ。並んでいる文字を何度も何度も見て、驚きを飲み込む。すると、胃の中で消化されている驚きが別の感情となって成長し始めた。


『オレの方が悪いだろ。謝るなウゼェ』


 あ、いや。これが巷で流れているツンデレと、いうものなんだろうか。固まってじっとメールを見ているとスクロールバーがついていることに気づいた。
 足を家のほうに向けながら下へ下へスクロールさせる。面倒な事をするんだな、志岐先輩は。最初の恐怖はどこへやら、にやにや気持ち悪い顔で見ていたらカチっと最後の文章に行き当たった。

『屋上来い、月曜の朝』

 もしもおれがこれに気づかなくて行かなくても、志岐先輩は気にもしないだろうし、その程度だと思う。苛立って教室に迎えにも来ないし、殴りもしない。声を荒げる程度で終わるのだと思う。
 裕人の言葉が蘇る。あのな裕人、おれだってな、志岐先輩は噂で聞くような人じゃないな。って、どこかでは思ったんだよ。目で見て、少し知ってるし。やっぱ怖いじゃん。不良だし、赤メッシュだしさ。
 でも、文面から感じるぶっきら棒な雰囲気に笑ってしまった。彼氏は嫌だし、友達もどこかいやだけど、先輩後輩の関係だったら、もしかしたらこの人って結構面白い人なんじゃないだろうか。
 しばらく悩んだが、おれは帰路につきながらむにむにと携帯を操作した。


『――了解しました、志岐先輩』


 返事は返ってこなかったけど、でも、おれのこの複雑な気持ちも届けば良い。
 怖いし、近づきたくないし、視線がうざいけど、先輩ってなんだかんだ優しいからな。裕人に会ってよかった、先輩にメール送ってよかった。謝って、よかった。
 ノスタルジックで幻想的な夕日が久しぶりに気持ちいいものに思えた。



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