「志岐?」 「っつーか、おまえオレのことマジ知らなかったわけ?」 「興味ない」 「はっきりだなおい」 和山の傍は想像以上に心地よくて、休み時間とか授業中とか関係なくオレは中庭に来ていた。 気兼ねしない相手、自分のことをよく知らない人間。噂なんて気にしない。そんな和山の傍は居心地がよかった。 そんな風に思っているのに、相変わらず喧嘩ばかりしていて、血を浴びて笑ってる自分。和山と話して笑ってる自分。 どの自分も自分なのに、わからなくなっていた。 「――弱ェ」 胸倉を掴んでいた男の襟もとから手を離せばずるりと体が地面に落ちる。 拳は血で赤く染まっているのに、周囲には影が降り赤ではなく黒色に変化していた。 どうしてこういう生活しかできないのかと思う。 家庭環境が悪いわけでもない、学校生活に不満があるわけでもない。それでも、堕ちるのは早かった。 喧嘩が好きなことは、悪いことなのだろうか。 誰かと争うことなんて世間一般から見たら、醜く、子どもじみたものだと思う。思っているけど、些細な好奇心から一歩はみ出す。 それだけで、あっという間に転落だ。 尾ひれ背びれのついたうわさに惑わされる人間関係だったのか。 過ごした時間なんて全部消えてしまえるほどの。 「――自業自得、ばぁーかじゃねぇの……オレ」 吐き出す場所が見つからない。 鼻先を濡らした滴をきっかけに、激しい音を発しながら天から雨が降ってきた。 「志岐」 ザアアアアアア。 雨が喧しく頬を濡らし、煩わしそうな視線を向ける他人の傘を掻い潜り、聞こえてきた声音は耳慣れたものだった。 顔を上げ、視線を向けると大きな袋を片手で抱える和山がいた。 片手には傘を持ち、相変わらず何を考えているか分からない目をしている。 「濡れる」 「……もうずぶ濡れだし」 「喧嘩したのか」 「……文句あっかよ」 「ない。でも、濡れる」 「だから、もう濡れてるからオレは」 カンと高い音を立てて和山が持っていた袋の中から何かが落ちる。 業務用の果物の詰め合わせの様なものらしく、和山は両手がふさがっているから拾う事が出来ない。 仕方なしにそれを拾い袋の中に入れてやれば、和山はオレに向かって傘を傾けた。 当たり前だが、袋の中身は強い雨に晒され濡れていく。 「おい、和山」 「早く志岐持ってそれ」 「あのな」 「濡れたら怒られる」 「うっぜぇな」 「志岐」 「……」 「……」 「だああああああ! くっそ、行くぞばか!!」 何が悲しくて男と相合傘、しかも和山の荷物を気にしないといけないからオレは結局すっげぇ濡れるし! 満足げな和山の横顔を恨めしげに眺めていると、今まで感じていたものが急に消えていた。 「ところでおまえこれ……何買ってんの」 「店の買いだし」 「店?」 「そう。俺の家、店だから」 |