内臓がぐるぐるとひっかきまわされる。ぐちゅぐちゅ下半身から音が漏れてるけど、これは、何の音だろう、か。

「あっやぁっひっ!」
「っ…ぁまさ、や」
「せ、んぱぁっ…っあっぁあ」

 さっきまでの余裕なんてない顔が、おれの真正面にある。眉間に皺を寄せて、赤い前髪が上下に揺れる。
 切れ長の目つきの悪いそれが、歪んでこっちを見ている。それに視線を合わせると、噛みつくように唇が触れた。
 上も、下も、ぐちゅぐちゅという粘膜が全てを支配している感覚だった。
 先輩の片手がおれのものを掴んで、上下に擦られる。前も、後ろも、もう、気持ちいいが溢れて死にそうだ。
 ぎゅうと思わず先輩のものを締め付ければ、先輩は更に顔を歪めておれの名前を呼ぶ。

「力、抜け」
「ひぁ…っむ、りぃ」
「まさ、」

 だって、勝手に入る。気持ちよくて、もっと、奥まで欲しくて。
 おれってもしかして、もしかしなくても結構気持ちいい感覚に弱いのだろうか。思えば、こういう風に付き合う前から先輩には触られていたし。
 奥まで欲しいとぐっと腰を自ら動かせば、先輩はおい! と、焦った声を発する。
 でもおれの腰は勝手に動くし、我慢なんか出来ないし、きゅうきゅうと先輩のものを締め付けながら勝手に動く腰に、伊織先輩はおれの腰を押さえつけようとした。

「すき」
「ま、さや」
「あっ、あっ、いお、りせんぱっんぅ…ぁっ、いおり、のがっ」

 欲しい。好き。好き。欲しい。伊織先輩の全部が、おれのものになればいいのに。
 腕に力を込めればぐっと体が触れ合う。熱いのはおれなのだろうか、先輩なのだろうか。触れあう熱の温度に、めまいがした。

「すき…っ」
「――っ」

 熱い感覚をゴム越しに感じて、ぎゅっと握られたせいでおれはあっけなく吐精してしまった。
 荒い息が二人から零れる。呼吸を落ち着けるために数度溜息を吐き出しながら、吐精し、けだるくなった体からは一気に力が抜けて行く。
 耳元で、はあっと、熱っぽい息を吐き出す先輩に再度愚息が反応しかけたが、もう、吐き出す気力もない。

「せん、ぱ」
「喋るな、まじ喋るな。自己嫌悪中だから喋るな」
「……は?」
「先にイくとか、可愛さでイくとか、死にたい……」
「伊織先輩?」
「早漏じゃねぇからな! 決して違うからな! オレはもっとこう、おまえをだなぁ!」
「やぁっ……う、動くな! 抜いてから動け!」

 甘い雰囲気なんてどこかに消え、何故か知らないが目の前には落ち込んでいる先輩がいた。なんだよこの人マジ面倒くせぇ。
 使用済みのゴムをティッシュにくるんで捨て、先輩は真っ裸でベッドに胡坐をかいて落ち込んでいる。
 羞恥心を持てと言いたいが、おれの服は先輩の後ろにあるので同じく真っ裸のおれが言っても説得力はないだろう。
 今、この先輩を写メに撮って送ったらファンの女の子はがっかりしそうだ。かっこいいのに、なんかかっこ悪い。

「あーあ。情けねぇなー…」
「いいじゃないスか、もう」
「いや、プライドってもんがあるだろ!? 政哉気持ちよくして、オレも気持ち良くなる」
「な……なったじゃ、ないッス、か」
「違う。オレがおまえのイキ顔見ながらイキたかったの」
「(あわよくば死んでほしい)」

 かっこいいのに、器用なのに、テクニシャンなのに、不良なのに。なんでこう、エロにかける執念というか、そういう部分だけ残念なんだろう。
 どんよりした空気の先輩を見て、溜息を吐き出した。

「……落ち込むのもいいッスけど、おれ放置ッスか」
「――構って欲しい?」
「……」
「おいで」

 全裸の男二人、片や不良、片や平凡。そんな二人がベッドの上でじゃれあう。ホラーだ。
 腕を伸ばして先輩に抱きつくように突進したらそのままシーツの上に転がる。青臭い特有のにおいが鼻に届いて若干気分が悪かったが、あまり気にならなかった。
 真正面に先輩がいる。落ち込んでいたくせに、どこか嬉しそうな顔をしている。
 じぃっと眺めているとぺろりとまぶたを舐められて、泣いた痕がある。なんて、嬉しそうに言う。

「おれ、変じゃなかった?」
「すっげ可愛かった」
「……複雑」
「しょうがねぇだろ」
「先輩はやっぱエロかった」
「まあそうだろうな」
「……気持ちよかった?」
「男のプライドへし折るほどに」
「……おれも」
「うん」
「おれも、気持ち、よかったよ」

 先輩だから、先輩だったから。気持ちよさと、あと、嬉しさがあって。
 初めての相手は可愛いふわふわとした足の綺麗な女の子じゃなくて、おれよりでかくて、かっこよくて、変態な不良の男だったけど。

「最初が先輩でよかった」

 自然にニヤニヤする顔が抑えられなくて、うへへ。なんて、変な声で笑ってしまったら先輩がおなじみの「ばぁか」なんて、言葉を吐きだしておれを抱きしめる。

「まあ、挽回のチャンスはまだまだあるから、おまえも覚悟しとけよ」
「はい?」
「宣戦布告」

 甘ったるキスが降りて、ぎゅうと抱きしめられる。
 恥ずかしいし、変な声が出るし、疲れるし、なんか体痛いし。でも、気持ちよくて嬉しくて、こんな先輩が見られるなら何度だってしたくなった。
 宣戦布告の意味はよくわからないけど、まあ、いっか。今、この瞬間が、驚くほどに幸せだから。




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