指が、動く。
 息がし辛い。いつの間にか、荒い息が唇から零れてる。感覚から逃げたいのに、先輩がおれの手を、押さえつけるみたいに握っているから身動きも取れない。
 涙がぼろぼろ勝手にこぼれて、苦しくて、でも、下半身はどろどろの感覚があって。気持ちいい、死にそう、はやく、はやく、はや、く。

「せんぱ、せんぱい、っあ……っいお、りせんぱ、」
「ん?」
「くる、し」
「ん」
「いお、り、せんぱいっ、ぁっ」
「ずるいな、おまえ」

 何がだ。それを言うなら、先輩の方が、ずっとずるい。
 いつだってかっこよくて、いつだって上から目線で、いつだっておれの事気遣って、いつだって余裕面で。いつだって、先輩の方がずるい。
 指がずるっと抜かれる。粘膜のにちゃという音が生々しく聞こえ、入っていたものが抜けて鼻にかかったような声がこぼれた。でも、その音をかき消すようにガチャガチャとベルトを外す音が聞こえた。
 ゴムを覆う袋を破って慣れた手つきで被せて、はぁ。と、先輩は臨戦状態の自分のものを一度見て、おれに覆いかぶさってきた。

「オレ、今までの相手は処女でも熟練でも気持ちいいって言わせたんだよな」
「おいこら自慢か」
「余裕あって、テクニシャンだからさ、オレ」
「うぜえ!」
「でも、政哉相手には、余裕ねぇから。――マジ、痛くしたら、ごめん」

 片手が先程同様におれの手を掴んだ。
 ずるい、やっぱり、先輩の方がずるいじゃないか。赤い前髪の隙間から、ギラギラと獣の熱と、憂う様な瞳が見えた。

「おれは、伊織先輩がいいって、何回も言ってる」
「……そーだな。たくましい後輩だよ、おまえ」

 ちろりと赤い舌が口内から覗き、それはぺろりとおれの唇をなめた。
 真摯な目が向かう。ぎゅっと、おれも先輩の手を握り締めた。指とは違う熱が、添えられてその熱に息を飲んだ時、呼吸を奪う様なキスが先輩から施された。

「――――っ!」

 脳みそに、直接響く様な、感覚が下半身からした。
 圧迫感と、熱と、痛みと、苦しさと。指で与えられた感覚なんかひとつもない。痛い、痛い。涙がぼろぼろ零れて、握りしめた先輩の手は、おれの力で白んでいた。
 唇が離れ、唾液がおれの顎に落ちるけどそんなのも気にならない。犬の様な呼吸しかできなかった。先輩のものは、たぶん、半分も入ってないのに。

「いた、っぁ……」
「まさ、や……ちから、ぬけ」

 出来ない、そんなの。首を振れば下半身のつながった部分に振動が伝わって痛みが走る。できるだけ身動きを取らないようにするのに、荒くなる呼吸でそれすら無理だ。
 先輩だって苦しいのに、力を抜かなきゃいけないのに。できない。情けなさと、申し訳なさと、痛みが混ざって涙が次々に出てくる。その涙を、先輩はゆっくりと舌先で舐め取り、甘ったるい声音を発しながらおれの、痛みで萎えたものに手を伸ばした。

「ふっ、あっ…っぁ、や」
「力、抜けてきた、な」
「んっ、あっ…ぁっ」
「政哉ん中、すっげぇ、気持ちいーな」

 しゅっしゅとしごく音と、粘膜の音が混ざる。先輩がゆっくりと腰を動かせば痛いのに、前でしっかりと勃っているおれのものがある。
 耳の中に舌を突っ込まれて、ぐちゅぐちゅと音が鳴る。甘ったるい先輩の息遣いが時折耳をくすぐった。チカチカと目の前が光った。政哉、名前を呼ばれたらぶるりと体が震えた。

「ぜんぶ、入った」
「う、そ」
「まじで。すっげーな、今にもイきそー」

 ぽたりと先輩の汗がおれの鎖骨に落ちる。下に視線を向けたら、先輩のが、おれの中に完全に入っていた。
 腹の中に熱の塊があって、それは脈づいてて別の人間の異物が入り込んでいるってわかる。それが先輩のもので、こんな風にでかくて、固いのは、おれに興奮している、からで。
 熱の感覚に浮かされる。握った手に力が入り込む。涙の残留が頬を伝い、先輩はそれを無骨な手でぬぐった。

「いおりせんぱい」
「おぅ」
「好き」
「……」
「伊織先輩を、好きになれて、先輩がおれの相手で、よかった」

 吐き出した台詞は、膨れ上がった熱と、舌打ちした先輩の音にかき消された。




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