あっ、あっ、あっ。
 熱で支配された頭は思考をする余裕もなくて、勝手に唇から零れる音は甘ったるくて、気持ち悪い。それなのに、先輩は、嬉しそうに、切羽詰まった顔で笑う。
 吐精し、けだるい体を気遣う手は優しいのに、欲望に支配された指先は、確かにつながる部分に触れていた。

「こわい?」
「……っべ、べつに!」
「痛いぞ、たぶん」
「うっ」
「苦しいかも?」
「なっ」
「泣くかも?」
「あ、あんた、不安にさせんなよ!」
「――政哉が苦しんでるって分かってても、それでもオレはヤりたいんだよなぁ」

 身を屈め、先輩はおれの鎖骨に唇を寄せた。指先は下に宛がったままで、緊張とか、羞恥とか、色んな感情が混ざる。
 すまなそうな顔して、瞳は欲望に濡れて、好きだなんて睦言を言って、結局痛いのはおれだ。ずるい、先輩は、ずっとずるくてたまらない。
 それでも、おれは、構わないのに。
 投げ出されていた腕を先輩の背中にまわした。肌と肌が触れ合って、汗のしっとりした感覚が伝わってきた。
 微かな振動がきて、ごめん。なんて、嬉しそうな顔で言われた。

「ジェル? クリーム? 一応買ったんだよ」
「……準備いいッスね」
「男って生き物はな、気持ちいいことには従順なんだよ」

 指先に透明で粘度の高いものを絡ませ、先輩はつぅっとそれをおれの尻にも絡めた。
 つめ、てぇ。火照った体にはそれすら反応を見せるものになる。ぎゅっと腕に力を込めたら先輩は苦笑を浮かべ、あやす様に唇に吸いついた。

「ん……っ」

 伊織先輩の汗のにおいが鼻先に触れる。浮かびかけていた意識が再びたゆたい、力が体から抜けていく。それを狙っていたかのように、先輩の指先はそろりと、おれの体の中に押し入ってきた。

「んっ……」
「どんな、感じ?」
「……き、もちわりぃ」
「素直で結構」

 人差し指が第一関節まで入る。先輩の用意したもののおかげで、痛みはあまりない。
 でも、本来なら排泄器官である部分に指を入れているせいか、内臓が妙な感覚になる。気持ちいいでもなく、予想より痛くもなく、ただ不快感だけあった。
 顔をしかめているおれに、先輩は空いていた片方の手を胸に運びゆっくり撫でる。下半身よりも、上半身の方が刺激が強くて思わず目を閉じた。
 ぺろりと、犬のように胸を舐めながら、指先は奥に進んでいく。気持ち悪い、気持ちいい、混同する感覚に眩暈がする。

「う、ぁ、やだぁ……」
「痛い?」

 首を振って違うと示す。先輩は顔を上げてじっと視線を向けてくる。
 どう、言えばいいんだろうか。気持ち悪いんだ、気持ちいいんだ、わからない。初めて得る感覚は未知数で――怖い。
 ぐっと先輩の背中にまわしていた腕は震えて、もう先輩を掴めない。
 体内で、ぐるんと指が回される。腸壁を撫ぞる感覚に背筋が震えて、おれの指先はそれを掴む。

「政哉、気持ちいいのか?」
「わ、わかん、な」
「二本目、突っ込んでいい?」

 そう言いながら、すでに爪先を入れかけている男が目の前にいる。
 信じらんねぇ。言ってる傍から入れてんじゃねぇよ。微かに痛みが走る、耐える声が口から零れて、シーツを掴もうとした手は胸を触っていた先輩に掴まれていた。

「いおり、せんぱ、い」
「あぁ、もう。本当……捕まえとくから、喘いでろって」

 二本の指が体内でぐるりとうごめいた。
 背筋に走るしびれに喉から音が出る。甘ったるくて、死んでしまいたいその音に先輩は切羽詰まった顔をした。




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