自分でするのと、先輩にされるのとではどうしてこんなに違うんだろ。
 射精の感覚に体が酸素を求める。はっはっはっと、息を吐き出しさっきまで先輩がいた場所に視線を向けると口の端から白いものを流している先輩が見えた。
 嘘、え、おれ。

「あああすいません! が、我慢できなくて!」
「あーいいのいいの。飲んでみたかったし、でもやっぱ慣れないと駄目な」
「ティッシュどこスか!」

 伊織先輩が口から流しているのは間違いなくおれの、精液、で。
 飲んでみたかったなんて変態のようなことを言いだす先輩に、ツッコミを入れるのも忘れて、ベッドの傍にあったティッシュを先輩に渡した。
 くしゃりと掌に数枚乗せ、先輩はそれにおれの精液……を、吐き出し丸めて部屋の隅にあったごみ箱に飛ばした。
 弧を描き、入り込んでいくそれを目で追っていると「政哉」と、名を呼ぶ声が聞こえた。

「んっ」

 青臭い匂いが鼻につく。眉が自然に反応し、腰が引けるが伊織先輩が腕を回し離さないようにしているから逃げることができない。
 くちゅ、ちゅっと、唾液の絡み合う音が耳に入り込み先輩の微かに白く染まった舌が入り込んできた。
 それって自分の精液舐めるのと同じなんじゃねぇの?
 なんて、気分の悪いことを思ってしまったけど、そういう思考をすべて飛ばしてしまえるような激しいそれにいつの間にか顎を伝って唾液がだらしなく垂れていた。

 伊織先輩のキスは、頭がぼーっと、する。
 ふわふわとして、ぐるぐるして、なんていうか、擬音でしか表現できなくなってしまう。
 もっと、欲しい。
 逃げ腰だった体は先輩の背中に腕を絡めて、気付かないうちに自ら近づいていた。
 一度吐精した体は虚脱感に覆われていたけど、若いってやっぱすげぇ。おれの愚息は緩やかな反応を見せていた。

「一回出したし、本番……いいか?」
「はっ、せん、ぱ……」
「気持ちよくしてやるから、啼いとけ」

 おまえまじで男抱いたことないのかよ。なんて、浮かんだけど言う余裕がなかった。
 腰の辺りにあった先輩の手がそっと降り、おれの尻を撫でまわす。
 正直、尻を撫でられても気持ちいいとは言えなくて、ただ羞恥しかない。

 おれ、今から、先輩に、されるんだ。

 ぐっと歯に力を入れ、降りてくる手の感覚に耐える。
 先輩のことは好きで、これはおれの望んだことだけど、それでも、やっぱり男としての矜持は少し、傷つくと思わざるを得なかった。
 耳たぶを掠める先輩の呼吸がキスのせいか、少し熱っぽい。
 それを聞けば先輩も興奮しているんだってわかって、それがなければおれは身を捩っていたかもしれなかった。
 腰骨をつっと指が撫で、焦らすような早さで指が降りてくる。

「まさや」

 熱の入った音が耳を掠め、背筋が震えた瞬間、その場所にそっと爪先が触れていた。




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