腹の上を、自分とは違う生き物が、何らかの意図をもって這うというのは、言い難い感覚を伝える。
 たとえば、クラスメイトの悠一に同じことをされても、いたずらされている程度にしか思わなくて、おれはあいつの頭をぶん殴るだけなんだ。
 でも、今しているのは先輩で、この場所はベッドで、部屋の中はクーラーがガンガンに利いていて。そういう、雰囲気で。そういう意図の動きで。

「思ってたんだけどさ、政哉って肌、キレーだよな」
「しる、か」
「女みたいに白くはねぇけど、化粧とか、変な小細工してねぇから、つるって滑る」

 小指が離れ、薬指が離れ、中指が離れ、人差し指が名残惜しむように腹から離れる。
 楽しみ、感触を味わっているだけのじれったい触れかたに、いっそがっつり喰いついてくれればいいものを、なんて思ってしまう。
 シャツは脱ぎすてられ、ベッドの足もとでぐしゃぐしゃになっている、先輩は制服のままで、おれだけが異常に見える。
 伊織先輩の口角が薄く上がって、顔が近付いて、唇がひっつく。
 触れ合わせるだけのそれは優しくて、怖い顔をしている癖にと、こんな状況なのに笑いたくなった。

 脇腹をなまめかしく手が這い、するりと股間を覆うように掌がそこに乗った。
 背筋が震えて、一瞬息をつめれば隙を狙ったかのようにぬるりと舌が入り込んできた。酸素を求め口を開けば、より、深く、唾液ごとのみ込むように舌が蹂躙する。
 カチャカチャとどこか遠くから聞こえてくるベルトの外れる音が聞こえ、下半身がゆったりとしたところで先輩は口を離した。

「触っていいか?」
「聞くなよ……!」
「聞くっつーの。緊張してんだし」
「え、先輩って童貞じゃないッスよね」
「でも、政哉を抱くのは初めてだ」

 おまえが、やっと、オレのもんになるんだ。そう言いながら、おれの息子を掴む先輩の姿は滑稽なのに、おれは女の子みたいに馬鹿みたいに、感動してしまった。
 上下にゆっくりと擦られる感覚に、尾てい骨辺りにじんじんと気持ちいいものが蓄積される。ぐじゅ、ちゅくと音を立てるそれに耳がおかしくなりそうだった。
 自分でするのと、先輩がするの、大差ないはずなのにどうしてこんなになってしまうのだろうか。
 掌で声が出ないように抑え込もうとすれば、見越した先輩がその手を止め、おれの眼前で笑っていた。

「だめ」
「や、だぁ」
「いいんだよ、聞こえても」
「はずい」
「そりゃ、ハズカシーこと、してっから」
「いお、りせんぱ」
「全部見せろよ。どんな政哉でも愛してやっから」

 あんたのセリフが、一番、恥ずかしい。ちゅっと、おれの手にキスをした先輩はそのまま体を動かし、おれの股間に顔を置いた。
 あ、うそ。AVの女の子が男優にしているのを、何度も見たことがある。だっておれも健全な男子高校生だ。だから、そこから先の知識もあって。
 ちゅっと、聞こえる水気を含んだ音に、舌の生ぬるい感覚に、腰の感覚が一瞬消えた。

「うぁ、やっ、それやめ、っ」
「下手だと思うけど、いい?」
「ひゃぁっ! しゃべるなぁ…っ」

 おれの愚息を躊躇せず口に含んだ先輩は、口の中でべろりと亀頭に舌を埋め込んだ。
 ぐりぐりと指とは違う、唾液で生温かい感触に、目に見えない口の中で行われる蹂躙に翻弄される。
 口を、押さえたいのに、先輩が押さえているわけじゃないのに、さっきの言葉が頭に残って出来ない。
 もう、ほんと、おれ、この人のこと好きすぎでキモイ。

「うぁっ、あぁ……ぁっ」

 女みたいな声、本当にキモイ。でも、素直に手を離して声をもらしだしたおれを見て、嬉しそうに伊織先輩が笑うから。
 ああくそ、いいよもう、あんたが嬉しそうなら。
 ちゅっと吸いつく感覚に、一瞬で頭が真っ白になった。吐き出した精液はぜんぶ、先輩の口の中に吸い込まれた。




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