第一声は「馬鹿か?」だった。

 おれのあらん限りの勇気を振り絞った言葉に対し、それはいかがなものでしょうか! と、あの不良に問いただしたい。
 今思い出してもむかつくが、志岐先輩は真顔で「馬鹿か?」と、言いやがった。
 普通さ、彼氏が彼女のポジションの人間に「体で払います」的なこと言われたら興奮するんじゃないのか?
 少なくとも、おれが彼女のポジションの人間に言われたら興奮するな!
 もう、できないけどさ。

 先輩って、少なくとも遊んでいたことは否定しないし、そういうものに慣れてしまっているのだろうか。
 おれとあの……えろいことしてるときも、大抵無表情に近いか、嫌な笑顔浮かべるだけだし。
 齢18にして枯れているのか? ……ああ、いや、それはないな。先輩えろいし。
 だったら、なんであんな反応だったんだ?
 ここで、もしかしておれって好かれてないのかな。なんて考えが浮かぶほど、おれは馬鹿じゃない。

 おれは先輩が好き。先輩はおれが好き。これはもう揺るがない。
 だって、先輩は好きじゃない人間には触ってこないだろうし、勃ちそうにない。
 思い出さないようにシルエットだけを思い起こし、そして、仕入れた知識を思い出してしまった。
 あれが、おれの、尻の穴に……。
 ……いや、好きだよ、先輩の事は。でも、あれなんであんなにでかくなるんだろう。日本人の平均を明らかに上回ってるよね、先輩の。

「早まったのって、おれかな、やっぱ……」

 キスは好きだ。先輩には言わないけど。
 軽く触れるのも、べろちゅーも、好き。
 甘い香水みたいな匂いをつけているときもあるし、甘い物を食べた後のキスもある。
 糖分は嫌いだけど、先輩とのキスは嫌じゃない。好きだ。言ったら調子に乗るから絶対に言えないけど。

 でも、おれもオトコノコで。それ以上先にも進みたい。
 なんとなく、おれの体を気遣ってくれてるのはわかる。仕入れた知識で、痛いかもしれないことも知ってる。
 それでもおれは、先輩に、先輩と――。

「――なんであの人余計な事は気づくのに、こういうの気づかねぇんだよ……」



* * *



(人の気も知らねぇで)

 吐き出されたその台詞に咄嗟に返した言葉にうな垂れる。
 仕方ない、じゃあ、他に何を言うんだ。
 心臓がうるさい、絶対顔が赤い、すげぇ嬉しい。でもまだ駄目。
 がっつく、情けないけど絶対に。離せなくなる。これ以上ないと言うほど、今でも苦しいのに。

 白い肢体が何度夢の中でめちゃくちゃに乱れたのか、教えてやろうか。ドン引きされると思うけど、それがある意味あいつのためだ。
 ああ、くそ。
 馬鹿、ほんとう、馬鹿。

「なんで普段はそういうこと言わねぇのに、そういう時に思いきりがいいんだよ……」




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