ぬる。咥内に舌が滑り込んでくる。
 この感覚におれはいつまで経っても慣れない。口の中に意思を持った異物が入り込むんだ、慣れる事は無い。
 痛いほど目を閉じるのは恥ずかしさと、気持ちよさから逃げるためだった。
 背中を滑る先輩の手は、優しいけど、確かな意思を持っていた。

「んっ、」
「まさや」

 一字一句、確かめるようにおれの名前を志岐先輩は呼ぶ。その声が何よりも脊髄を犯した。
 口の中にあった舌が上顎を撫で、歯列を舐め、惜しむように舌を舐め、唇を掠めた。
 おれの唾液と、先輩の唾液で濡れた口の周りをちゅっと舐めた先輩は口角を上げる。
 エロイ顔。そう、言われた気がした。

 顎を伝う唾液を舐められ、そのまま下に落ちていく。
 首筋を這い、鎖骨の窪みを抉るように先輩の舌が舐めていく。
 体を舐められる行為なんて汚い行為なのに、志岐先輩だとなんでこんな、えろいんだよ……!

「痕、つけていい?」
「死ね!」
「おまえね、恥ずかしいからって死ねはねぇだろ」

 けらけら笑いながら言ってる男に、何を言われても説得力は無い。
 ちゅっと、甘ったるいリップ音と軽い痛みに眉を顰めたたら「オレの」なんて、言葉が耳に入った。

「え、マジ!?」
「可愛いぞー」
「バカか! 体育あんだぞ!」
「いいだろ別に、学校公認なんだしよ」

 そりゃ、公認だよ。周知の事実ってやつだよ。でも、これがあるとなしじゃ反応はやっぱり違う。
 洗面所で確認しようと立ち上がろうとしたら、ひゅっと足払いをかけられ、おれの視界は反転した。
 天井部分に先輩の顔が見える。おれの上には先輩が乗ってる。
 この光景は、別人で体験したことある。和泉に言われた奴らに襲われそうになったとき……。

 え?

 そう、間抜けな声が出た時にもう一回キスされた。
 シャツがいつの間にか腹まで捲られていた。片手で器用に外されていくベルト。屋上で聞いたことのあるもの。
 熱が一気に上昇する。顔が熱くなる。あの日の記憶が蘇える。
 青空、白い雲、先輩の声、おれの声、下腹部が、熱を持つ。

「当たってる」
「うる、さい」
「おまえってマジ敏感。いーことだよなぁ」

 恋人、同士だ。こういう流れは自然だと思う。
 でも、急だろ、急!
 今まで付き合っててキスしかしなかった。変に撫でたりは何回かしてたけど。
 ベルトを外されたのは屋上のあの日だけ。そして、今この瞬間だけだ。
 腰周りが緩くなる感覚、緩く立ち上がったおれの分身が震えた。

「――イきたい?」

 エロイのは、どっちだ。
 鮮明に覚えている快楽の熱に、おれは先輩を睨むだけだった。




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