眠い。欠伸を一つすると、先輩は呆れた顔でおれを見た。 ただ今絶賛課題の真っ最中。場所はちなみに先輩の家だ。おれは宿題、先輩は受験勉強。それでも出るのが眠気の象徴。 昨日遅くまでゲームをしていたせいだ。 ボスになかなか勝てなかったから、イライラして朝までプレイしてしまったことが今の眠気の結果だ。 先輩もそれを知っているから、呆れた顔をしているんだろう。 「政哉な……おっまえ、受験生のおれに平気でよくも」 「先輩も二年のときは遊んでたくせに」 「……ムカつくなー」 否定をしないので本当なのだろう。 シャーペンを手の上でくるくる回転させながら、先輩はそれをノートの上に放った。 数学は勉強しなくても出来るらしい先輩は、苦手な英語を書き綴っている。 日本語も出来ないのに、英語が出来るわけがねぇ。が、先輩の自論だ。ある意味潔くてかっこいい。 おれは社会科のいそやんに出された、鬼とも呼べる課題の量をこなしている最中だ。 こうしていると、おれと志岐先輩っていまいち、付き合っているって思えない。 デート……って、いうか、遊びに行くのは普通だし、手は繋がないけど、気づいたらじゃれてるし。 でも、そういうのって普通の男友達でもすることだしなぁ。 たまに、キス……は、するけど、付き合う前よりも先輩はおれに触ってこなくなった。 まあ……おれとしてはありがたい。恋愛初心者に、プロフェッショナルの手ほどきは些か心臓に悪い。 「政哉ーじっと見てなんだよ、そんなにオレかっこいい?」 「あ、はい」 「……肯定されたら照れるだろ、ばぁか」 「……じゃあ、言わなきゃいいでしょうよ」 若干顔を赤くした先輩は、言わないけど可愛いって思う。 目つき悪いのになー。おれの目は絶対に節穴だな、これ。先輩限定に。 ペンを放り投げていた先輩の手がおれに伸びた。いつの間にか近づいている距離に声を発する前に腰を抱き寄せられる。 左隣に接する先輩の熱。クーラーが効いて涼しい室内だけど、左側だけ熱がたまる。 右の腰に伸びている手。おれより高い位置にある先輩の頭が傾いておれの頭に預けられる。 寄りかかってくる体は重かった。 「重いッス」 「充電中」 「……先輩って、結構甘えたッスよね」 「オレも知らなかったけどなぁ」 髪の毛に口を付けながら「政哉にだけだし」と、言われれば死んでしまう。 積極的で、男前で、かっこよくて、ストレート。甘い言葉は惜しみなく、言いたいことは全部言う。 でも、オブラートに包んで欲しい。日本人は慎ましやかな人種だ! 「真っ赤」 「……うっせぇ」 「いや、いいぜ。恥らわないとな、何事も。初々しい反応は可愛いしな」 なんだこの奇天烈破廉恥生物は。なんだこのエロス全開の生物は。 逃げようともがけば、両腕で拘束された。不自然に倒れそうになった体は、自然に先輩に抱きしめられる。 鼻先を思いっきり先輩の体で打ち付けると、先輩の腕は背中にまで回っていた。 あれ、やばくね? 思った瞬間、べろんと首を舐められた。 「ぎゃああ!」 「色気がねぇにも程があるな」 「だって!」 「もうちょい我慢してろ」 もうちょいって、何を!? 叫びそうになった口を、先輩の口が覆った。シャツの中にいつの間にか先輩の手が入り込んでいた。 |