志岐先輩って、手が早いだろ。 政哉くーん、どこまで進んだ? お前が受けは想像したくねぇな。いや、志岐先輩もそうだけど。 うっぜえええええ!! おれ達は、あれだ、高校生らしい健全な付き合いをしていくんです!! 「……志岐先輩と付き合って」 「一ヶ月。夏本番の季節だなー」 「未だ、キス止まり……」 「健全でいいことだ」 何か言いたそうな悠一などスルーし、おれはコーヒーを一気に飲み干した。 じわじわ聞こえてくる蝉の鳴き声のせいで暑さは更に上昇している。額に浮かぶ汗を拭い、息を吐き出した。 志岐伊織。 不良のトップ、キングオブ・不良。と、付き合い始めて早一ヶ月。 一緒に遊びに行くし、互いの家にも行き来しているおれ達は、どうやら周囲の人間から見ればとてつもなく、珍しい付き合いをしているようだ。 まあ、相手が先輩だからそう思うんだろう。 一ヶ月だったら、キスでいいだろ。 付き合う前に色々激しいスキンシップを体験したが、先輩はそういう事をしない。 なんていうか、時々思い出したようにキスをするけど、それ以外は先輩後輩の関係だ。 「志岐先輩って我慢強いの? へたれなのか?」 「……先輩がへたれだったら、全世界の男がへたれだな」 「納得」 清涼飲料水をぶらぶらと振り回し、悠一はあぢぃ。と、うざい声を発する。 開けっ放しの窓からは、地平線を埋め尽くすように入道雲が現れた。 最早来た回数なんて数えてない先輩のマンション。 おれの荷物が少しずつ、気づかないうちに増えている。 学校帰り、マンションに入った瞬間「よーこそ」なんて軽口と一緒に頬に唇が落とされた。 先輩とのキスって、えろいっていうより、大事にされてるんだなーって、思う。 嫉妬とか、怒りとか、そういうものが無い限り先輩は優しい。 まるで、真綿で包み込むような力でおれに触れる。壊れ物にでもなったような気分になる。 「政哉、おいで」 「おいで……っての、やめてくださいよ」 「なんで?」 「卑猥だから」 「じゃあ、やめねぇ」 からかうように言う先輩に近づけば、ぎゅっと胸の中に誘われる。 最近は煙草の匂いがしなくなった。ヤニ臭いキスって嫌だ。と、言ったその日から止めたらしい。ある意味煩悩の塊だ。 背中に伸びてくる掌の熱は、ブレザーだった頃よりも身近に伝わる。 緩めているワイシャツから、先輩の鎖骨が見えてえろかった。 毒されてるなー。おれ。 前までそんなの見ても、えろさなんて感じなかったのに。まあ、先輩のフェロモンが大量発生中も原因か。 「今日も泊まっていくか?」 「着替え持ってきてないッス」 「お前この間忘れて帰ってるから平気」 「あぁ……そういや、最近見てない服があったような」 抱き合ったまま、平然と交わされる会話。 平気そうな先輩。おれは未だ少し恥ずかしい。 ……これで、いいと思うんだよな、おれは。 先輩が我慢してるとか、お前はそれでいいの? って、言われるけどさ、今この状態で幸せなんだから、それ以上何を求めるんだ。 じっと先輩を見上げた。 不思議そうな顔をしたけど、志岐先輩はそのままおれにキスをした。 優しいふれあいは好きなもので、おれはもっとと強請るように背伸びした。 |