政哉は、大馬鹿者だと俺はその時思った。 前々から、色々考えていたらしい。バスケは楽しいけど、もっとじっくり俺の試合が見たかったのだと笑って言った。 なんだよ、それ。 だからって、バスケまで辞めなくて良いのに。来年は三年だ。政哉もレギュラーを取れる実力だ。 「真剣にしてる奴らに、悪い」 そんな風に言い、政哉は冬の大会を最後に辞めるつもりだと俺に言った。 政哉は自分勝手だ。本当にそう思った。 自己完結して、自分の考えを貫いて、それを皆に強要するのだから。 俺のプレイがじっくり見たいとか、そんな理由であっさり辞めてしまうんだから。勝手で、馬鹿で、そして。 酷い奴だ。 そんな酷いやつの傍にいて、その答えに安堵する俺も、多分最低なんだろう。 「大体な、オレがいながら藍田と遊ぶっておかしくね!?」 「志岐先輩だって和山先輩と出かけるじゃないッスか!」 口喧嘩か、ただじゃれているだけか、政哉と先輩のやりとりを目の前で見る。 あれから、政哉と俺は少しだけ変化した。 コートから離れた政哉、コートに残った俺。 政哉のために最高のプレイをすると決めた俺、俺のプレイをずっと見ると決めた政哉。 変わることのない距離、大人になっても変化しない関係。 親友、幼馴染。俺と政哉はあの夏の頃に完結してしまった。 政哉には恋人が出来て、俺はバスケ部の主将にならないか? と、言われている。 時間は刻々と経過して、自身は変化するのに相手に対する感情は変わらない。 俺は政哉を支える。政哉は俺の傍にいる。 「藍田と政哉仲良すぎなんだよなー」 「それはそうですよ」 「ああ?」 「だって、俺達――」 約束したんだ。 「親友ですから」 政哉のいないコート、俺は中学の試合で、シュートを投げた。 弧を描いたボールは、体育館の窓から覗く青い空の光を受けて微かに光り、外で応援している声が聞こえた。 その声は、どんな歓声よりも俺に届く声で。 「俺、志岐先輩の真反対で政哉を支えますから」 俺は、あの声を聞くためにバスケをする。 政哉が、安心して相談できるような人間に見えるように。 それが、馬鹿で、どうしようもない、牧野政哉に向かって出来ること。 |