政哉は、大馬鹿者だと俺はその時思った。
 前々から、色々考えていたらしい。バスケは楽しいけど、もっとじっくり俺の試合が見たかったのだと笑って言った。
 なんだよ、それ。
 だからって、バスケまで辞めなくて良いのに。来年は三年だ。政哉もレギュラーを取れる実力だ。

「真剣にしてる奴らに、悪い」

 そんな風に言い、政哉は冬の大会を最後に辞めるつもりだと俺に言った。
 政哉は自分勝手だ。本当にそう思った。
 自己完結して、自分の考えを貫いて、それを皆に強要するのだから。
 俺のプレイがじっくり見たいとか、そんな理由であっさり辞めてしまうんだから。勝手で、馬鹿で、そして。

 酷い奴だ。
 そんな酷いやつの傍にいて、その答えに安堵する俺も、多分最低なんだろう。



* * *



「大体な、オレがいながら藍田と遊ぶっておかしくね!?」
「志岐先輩だって和山先輩と出かけるじゃないッスか!」

 口喧嘩か、ただじゃれているだけか、政哉と先輩のやりとりを目の前で見る。
 あれから、政哉と俺は少しだけ変化した。
 コートから離れた政哉、コートに残った俺。
 政哉のために最高のプレイをすると決めた俺、俺のプレイをずっと見ると決めた政哉。

 変わることのない距離、大人になっても変化しない関係。
 親友、幼馴染。俺と政哉はあの夏の頃に完結してしまった。
 政哉には恋人が出来て、俺はバスケ部の主将にならないか? と、言われている。

 時間は刻々と経過して、自身は変化するのに相手に対する感情は変わらない。
 俺は政哉を支える。政哉は俺の傍にいる。

「藍田と政哉仲良すぎなんだよなー」
「それはそうですよ」
「ああ?」
「だって、俺達――」

 約束したんだ。

「親友ですから」


 政哉のいないコート、俺は中学の試合で、シュートを投げた。
 弧を描いたボールは、体育館の窓から覗く青い空の光を受けて微かに光り、外で応援している声が聞こえた。
 その声は、どんな歓声よりも俺に届く声で。

「俺、志岐先輩の真反対で政哉を支えますから」

 俺は、あの声を聞くためにバスケをする。
 政哉が、安心して相談できるような人間に見えるように。
 それが、馬鹿で、どうしようもない、牧野政哉に向かって出来ること。



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