政哉が、俺を避けてる? 「藍田ァ! ぼーっとしてるなら出てろ! 邪魔だ!」 「すいません!」 政哉と俺は、親同士の仲が良く、小さな頃からずっと一緒だった。 幼稚園でも、小学校でも、中学でも。ずっと、ずっと一緒だった。 政哉が俺を頼って、俺が政哉に頼られる。そういう図式がずっとあって、周囲もそんな図式を理解していた。 ボールの跳ねる音、声が飛び交い、振動が伝わってくる。 俺は、何のためにバスケをしているんだろう。 政哉が誘ったから、政哉に誘われなかったらこんな楽しいこと知らなかったのに。 政哉がいないこの場所で、俺はどうして、あんなゴールに執着しなきゃいけないのだろうか。 火照っていた体が冷めていく。 怖かった。ただ、怖かった。 政哉の傍にいられないことが、不安で仕方がなかった。 「藍田、ちょっと来い」 「はい」 「話がある」 不甲斐ない日はどこまでも、駄目だった。 一本もシュートを決められなくて、もう試合も目前なのに俺はそんな事すら気にならなかった。 先輩に呼び出されても当然だ。 三年の先輩を押しのけて俺は補欠メンバーに入った。 そんな俺が、だらしないプレイをしていたらむかつくし、そんな男に負けたのかと苛立つだろう。 夏の日、遅くまで残っても微かに薄く赤いラインが空には残る。 青空の下で、笑いながらボールを追いかけていた。体育館の床を踏みしめ、あの快感を生み出そうとしていた。 それがどうだ。 目の前には先輩がいて、俺を睨んで、そのうち唇から出てくるものは罵詈雑言だろう。 たかが。 たかが、幼馴染一人の存在に。こんなに左右される。 「お前、ふざけてるのか」 「……」 「真面目にする気、あるのかよ!」 「――ありました」 過去形。あった、ほんの一週間位前までは。 先輩の足が俺の横の壁に縫い付けられる。手を出してこない辺り、プレイヤーなのだろう。 夥しい言葉の群れ。辞めろ、情けない、ふざけるな、俺の方が、なんでお前が。 そんなの、俺が知りたい。どうして俺なんだろう。政哉じゃ、なかったんだろう。 「やる気がねぇなら、お前は――」 どうでも、いい。 辞めても、構わない。 だって、俺がバスケを続ける理由なんて――。 「裕人!」 「――政哉……?」 「何してんだよあんた! 裕人から離れろよ!」 唐突に現れたその存在は、手に持っていたストップウォッチが入っていた箱を落とした。 アスファルトの上に叩きつけられたものなど気にせず、政哉は体格差のある先輩を気丈にも睨みつける。 普段ならそれを宥めるのは俺の役目だけど、俺の前に現れた政哉に息が止まる。 なんで、こいついるの。 なんで、俺を庇うみたいにしてるんだよ。 お前……避けてたんじゃねぇの? 「牧野、邪魔だどけ」 「嫌だ! 裕人が少し調子悪いからって、そこにつけ込むなんて卑怯です!」 「うるせぇ!」 「……政哉、おまえ」 「裕人が今までどれだけ頑張ったかも知らないで、メンバーに入れなかったのはあんたのこういう部分が影響してるからだろ!」 あ、やばい。 一旦こうなった政哉は手がつけられない。相手が不良だろうと、か弱い女の子だろうと言ってしまう性格だ。 ストレートすぎる政哉の言葉が先輩の逆鱗に触れた瞬間、小柄な政哉の体は横に吹っ飛ばされた。 しかし、政哉は頭に血が上っているためか、痛そうに顔を歪めたが、すぐに起き上がり問答無用に先輩に向かってしまった。 「先輩! 政哉! 駄目だって!」 「うっせぇ!」 「殴ったのはこいつだ!」 小柄な政哉は動きが早い。ドリブルが巧いのもその為だ。 しかし、先輩の最初の一撃を思いきり食らっているので頬は腫れている。 片方を押さえれば、片方が殴ってくる。 両者の間に入り、宥めようとした所「何してるんだ!」と、背後から声が聞こえてきた。 そこにいたのは、騒ぎを聞きつけた部員で、それでも二人の喧嘩はなかなか収まらなかった。 |