政哉は、明るい性格だ。
 好奇心が旺盛で、変なところが真面目でそこで男に好かれる。
 本人は知らないけど、そういうところに気づいた女の子がいたら、絶対に好かれるって俺は思う。
 言いたい事を言う性格の政哉だけど、時々、肝心なことを言わないことがある。

 そんなに小難しく考えなくてもいいのに、あっさりと答えは出せるのに人の感情を考えて政哉は自我を出さないときがある。
 俺はそういう時の政哉を見て、ひどくジレンマに捕らわれる。
 政哉には政哉の思考が存在しているのに、答えが明確なこちらから見れば、政哉の行動はじれったく思える。

 牧野政哉の性格を知り尽くしている。
 知り尽くしていたと、俺はその時浅はかにも思っていた。

 補欠を決める試合があった。一年も、二年も、三年も合同の試合だ。
 五人の補欠メンバーを決定するための試合。
 最近まで小学生だった一年はほぼ、この試合で目立つ事はできない。
 必死な三年。気合の二年。基本的に二年と三年で補欠は決まる。
 数チームに分かれて、それぞれのポジションを選考する。
 俺も政哉も小柄な部類だけど、俺はシュートが得意で、政哉はドリブルが得意だった。

 三年の活躍を目に入れながら、あの日感じたものを再び手に入れるため、俺は我武者羅にボールを追っていた。
 そして、奪う。


「二年――藍田裕人」


 補欠。でも、チームメンバー。一瞬にして歓喜を覚え、落胆した。
 二年の補欠は俺だけで、政哉は、補欠選手に選ばれなかった。
 嬉しいのに、嬉しくない。
 俺の隣にはいつだって政哉がいなければ成り立たないのに、その存在はコートの脇にも立てなかった。

 政哉は笑って祝福してくれた。
 最初にバスケ部に誘ってくれたのは政哉だったのに。どう思われているのだろう。
 俺は怖くて政哉と向き合えなかった。それ自体が政哉に失礼だということに気づけなかった。



* * *



「裕人、おれ先に帰るな」
「ああ、じゃあな」

 レギュラーと補欠はその日以降、遅くまで練習に残ることになった。
 今まで政哉と一緒に帰っていたのに、政哉は他の部活メンバーと帰るようになって、俺は先輩たちと帰るようになった。
 それは自然で、あっさりとしていた変化だった。
 他の人間と笑いながら帰っていく政哉を見る。

 俺が普段存在している立ち居地は、実は誰でも立っていられる場所で、そこに俺がいる必要性は感じられない。
 そう思ったとき、一層バスケに打ち込んだ。
 逃げられる場所は、更に政哉と俺の距離を遠くしていることに気づかなかった。



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