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 6

"撤退するべきだ"

その言葉を口にしようとした瞬間


「…っ…サクヤ!全員を統率!ソーマ!退路を開け!」

瓦礫の向こうでアラガミと対峙しているであろう我らが隊長雨宮リンドウの声だ。
必死そうに声を荒げ叫ぶようにそいつは言った。

俺たちが決断しようにも、出来ないでいた撤退の指示だ。

「リンドウ!リンドウ!」

サクヤは悲痛な声をあげる。

「わりぃが俺はちょっくらコイツらの相手して帰るわ。……配給ビールとっておいてくれよ」
「ダメよ!私も残って戦うわ!」

俺は相変わらずぐったりと起きる気配がないアリサを背負う。
サクヤが瓦礫の向こうのリンドウへと聞いてる方がしんどくなってくるような声で叫び続けている。

「サクヤ……、これは命令だ!全員必ず生きて帰れ!」
「イヤアアア…!!」
「…っ……サクヤさん、行こう!このままじゃ全員共倒れだよ!」

コウタはサクヤの腕をつかみ言う、その表情はひどいものだ。

「イヤよ!リンドウ!」

涙を流し首を振り続けるサクヤをコウタは無理やりひっぱってゆく。
無事建物内から出るのを見届けた俺は瓦礫に向かって叫んだ。

「全員生きて帰るんだろリンドウ!その言葉ちゃんと理解してんだろうな!」

返事はない
聞こえているのか聞いていないのか戦闘が激しいものになっているのか、んなことは知らない。

「俺たちにとっては、おめえも全員に含まれてるんだ!守れよ、守って見せろよ!自分で出した命令を!リーダーさえも守れやしねえ弱い命令なんて一体だれが守るんだよ!」

時間がない、俺も早く行かなければならない。
こんな叫んでる場合ではないのだ、こんな性格でもなかった。
きっと先ほどのサクヤの悲痛な叫びのせいだろう、でなければ俺はこんな展開は何も思わず去っていけるはずだ。


「ほんっと言うねえ!お前は……!」
「それが俺だろ、言い返したかったらさっさと帰ってこい!」


俺はアリサを背負い直し建物の外へと走り出す。
もしかしたらまだリンドウは瓦礫の向こうの俺へと何か叫んでいるかもしれない。
でも俺はそれを聞こうとは思わなかった。最後の言葉であろうが俺は聞こうとは思わない。
俺の言いたいことが、きっとこの場の第一部隊のリーダー以外が思ったことを言えた。
ちょっとずるいかもしれないが俺はもうこれで何があろうと後悔はしないだろう。


ソーマたちと合流し俺たちはヘリの到着地点へと向かう。
始めこそ気味が悪いほどの数のプリティ・マータがいたが逃げているうちに少しずつ数は減ってゆき最後には1匹も追ってくることはなかった。
逃げ切れたことに安堵したがそれこそ本当に気持ちが悪い。あいつらは簡単に俺たちを殺せたはずなのに。

ヘリの中へと乗り込み椅子に座ると俺は背もたれに頭をもたれさせかけた。
後悔はない、後悔はないがイライラは止まらない。
あれだけの会話でリンドウへの後悔はないのだから非道な人間な自分だ。

しかし、イライラはする。
リンドウへの、アラガミへの、この重たいヘリの中の空気にも。
思わず舌打ちしそうになるがなんとか我慢する。いつもの口癖もまだ言葉には出してはいない。
これ以上、この空気が悪くなるのは避けたかった。





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