5
何かがおかしい、何か起こっている?
ここにいる全員がきっと思っていることだろう。
だが誰もそれを口にすることはなくただ険しい表情をさせながら警戒体制を続けていた。
「ーーっ!!」
何を言っているかは分からないが切羽詰まったようなリンドウの声がこちらまでに届いた。
苦戦をしているのだろうか?
俺の予想通りヴァジュラと対峙しているならばいくら熟練のリンドウがいるとはいえ、もう一人は俺たちよりも新人のアリサだ。
ソーマが舌打ちを打ち、サクヤが口を開いたその時、
ガラアアアン!!
あまりの大きな音に思わず全員が振り返る。
アラガミの足音でも鳴き声でも、ましてや人間のものでもない。
建物や瓦礫が崩れ落ちたような音。
コウタと目が合う。
「なんて顔してんだよ」
「だって……トウ」
心底不安そうに顔を歪ませているコウタ
「ソーマ、コウタは引き続きここを警戒、私とトウはリンドウ達の援護へ」
サクヤはそういい終えると直ぐ様踵を返し走り出しす。
「そっちは任せたぞ、コウタ、ソーマ」
ポンとコウタの肩を叩いた後、急いでサクヤの後を追うため足を動かした。
リンドウ達がいるであろう奥の部屋に向かうための通路を走っていると先に行っていたはずのサクヤが立ち止まり部屋の入り口を見上げていた。
そのそばにはアリサが座り込み項垂れている。
そのおかしい様子は部屋の入り口に近づいていくにつれて分かった。
その部屋の入り口は見事な瓦礫で埋まっている。
俺もその瓦礫を見上げた後アリサを見る。
理由こそは分からないが様子からしてこの瓦礫をやったのはアリサだと容易に予想できる。
「あなた……一体何を…!?」
ここにいるのはアリサだけだ、恐らくリンドウはこの瓦礫の向こうにいてアラガミを相手している。
アリサはサクヤの問いかけには答えず、ただブツブツと何事かを呟いている。
「………違う、違うの…パパ…ママ……私そんなつもりじゃ……」
ガァン!
サクヤが瓦礫に向かってレーザー弾を撃ち込むが瓦礫はビクともしない。
「おい、アリサ!」
肩に掴みかかり首を揺らすがアリサは俺を見ようとさえしない。
「言い訳なら後にしろアリサ!てめえこんな時に呆けてる場合じゃねえだろ!」
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
ボロボロと涙をこぼすアリサ。
俺が今欲しいのは意味分からない謝罪じゃない。
「アリサ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
アリサは一心不乱に謝り続けた後、フッと糸が切れたかのように気を失い俺に倒れ込んだ。
アリサを抱き止め舌打ちを打つ。
「サクヤ!」
サクヤは無駄であると分かっている筈なのに弾を撃ち込み続けていた。
俺が名前を呼ぶとサクヤはひどく怯えたような顔をして振り向いた。
初めて見たサクヤの珍しい表情に思わず言葉を詰まらせるが、そんなこと気にしている場合じゃない。
そんなことは何回やっても意味がないのだ。
「サクヤさん、トウ!」
慌てた様子でコウタがこちらへと走ってきた。
「どうしたんだ」
「やばいよ、やばいんだよ、プリテヴィ・マータが!」
コウタの言葉に思わず目を見開く。
第二接触禁止種 プリテヴィ・マータ
凄腕の神機使いでなければ対峙することさえ禁止されているアラガミだ。
ヴァジュラのメス型と言われ女王という異名を持っている。
悔しいが先ほどやっとヴァジュラを倒した俺にとっては厳しすぎる相手
「しかも一体じゃなくて、何体も何体も!」
俺の胸にいるアリサにコウタは気づいたがその事はなにも言わずただ向こうの状況を必死に説明をした。
「今はなんとかソーマのお陰で止めれいられているけどもう本当ギリギリなんだ」
どうすればいい?どうすれば生きれる?
ここにいる前はこんなことしょっちゅう考えた。
そして今もそれは変わらないみたいだ。
どう動けばいい?……いや、どう動けば助かるなんてそんなに考えを巡らせずとも分かっている。
俺の中にある答えは一つしかない。
それこそ、ここにいる奴は全員分かっているはずだ。
ただ言葉と行動に移せないだけで
リンドウが、ソーマがアラガミと戦っている音が聞こえる。
二人が生き延びるために頑張っているというのに俺たちはここで止まってる。
そんなだっせえことしてていい訳がない。
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