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手に汗がにじむ、それを握る。高鳴る心臓とザワザワする腹に少しでも落ち着かそうとゆっくりと静かに息をついた。

今日の討伐対象を知ってからの俺はずっとこんな感じだった。
変に緊張していて高揚している。

このままじゃダメだ。
このままだと、現場についても体は硬くなって思うままに動いてはくれないだろう。

「到着予定時刻まであと15分です」

ヘリを運転する男が言うと隣にいたコウタがパッと顔を上げ勢いよくこちらを向いた。

「トウ、いよいよだなー!」
「わかってる」
「…テンション低いなー、やっとだよ?やっとヴァジュラなんだよ?」
「そうだな」

コウタは「散々言ってたくせに」と不満そうに小さく言った後俺の肩に腕を回し顔を近づけて真面目な表情をして口を開く。

「ちけえよ」
「何かあったのトウ」
「んな訳じゃねえよ」
「ヴァジュラ討伐なんてどうでもいいの?」
「……嬉しいに決まってんだろ、やっとだぞ」

そう言って俺はコウタを退ける。
ヴァジュラは大型アラガミの中でも代表的なアラガミだ、見た目はトラという動物に似ていて体は大きいくせに動きは素早い。
攻撃範囲も広いらしくある程度の実力がなければこんなアラガミを討伐するようにとの仕事は来ない。
…って事はだ、やっとそこまでの実力があると、認められたってことだ。
早くもっと強くなりたいとよくコウタと話していた、嬉しくない訳がない。

「戦う気満々なのは良いけれどあまり無茶はしないでね」

サクヤは苦笑いして言った。

「…お荷物にはなってくれるなよ」

窓の向こうにある景色をつまらなさそうに眺めていたソーマも会話を聞いていたみたいだった。


「なんだよ、2人とも。俺たちの力をなめないでよ?」
「なめてはいないわよ。逆にもうここまで来たんだもの、怖いくらいだわ」

サクヤは発言の割には暗い顔をして言った。

「コウタ、張り切りすぎて誤射すんなよ」
「しないよ!てか、トウこそ緊張のしすぎでいざという時にダメですってのはやめてよ?」
「なっ……」

気づいていたのかと、恥ずかしさと驚きで言葉が見つからないでいるとコウタはニヤニヤしながら自慢げに言った。

「トウと俺って結構長い付き合いだし?もろバレバレっていうかー…ふふん」
「うぜぇー」
「ほらほら出ました!うざい発言!」

俺がうざいというとコウタは毎回こんなふざけた反応をするようになった。
それだけ仲が深まった、ということなのだろう。
しかし俺がうざいと言うのはそう思っているからである。
サクヤが小さく「ふふっ」と笑った、ソーマは相変わらず外を眺めているが会話は聞いているのだろう。
ソーマが目を細めたのを俺は見ていた。

思いたくはないがコウタのおかげか肩が下り緊張はまだマシになった。
しかし腹の中のザワザワは良くならずあまりいい気分ではない。
勝手に体がそわそわとしあまり落ち着かない、変な気分だ。
まあ、でも、きっとこれも緊張のせいだろう。



「ご武運を!」

祈るようにも聞こえるその言葉を言った運転手に軽く手をあげる。
お人好しな奴だ。大抵は生きて到着できるかアラガミに襲われはしないかと考え込んでこんな風に声をかける奴は少ない。
全員がヘリから降り離れるとヘリは上へと上がって行った。
やっと、ここまで来た。
今日の討伐対象はヴァジュラ、結合崩壊可能な場所は頭と前足と胴体そして尻尾
弱点は神と火と氷
アサルトにセットしてあるバレットの属性の確認をする、大丈夫だ。
剣の刃は鈍く光り今からアラガミをぶった切る満々のように見える。

よし、いける。
空を見る、曇っている。
晴天もいいが曇天だって日が眩しくなく過ごしやすい。
よし、倒せる。ヴァジュラなんてちんけなやつ余裕だ。






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