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 3


リンドウが先に続き俺も進む。

その先、リンドウの目的地は屋上だった。

狭く、薄汚れ、壁のコンクリートは剥がれてしまっている。
手すりに手をつけばザラリと感触がして、錆びているし手が汚れた。
ぬるい、なんとも言えない微妙な風が強く吹き髪が乱れる。

そんな場所から見る景色はきれいだった。

夕方だ、夕日の光がこの極東に射し込んでいる。
居住区より遙かに、この支部を囲むアラガミ装甲よりも高いこの場所は空がよく見えた。
風が強いせいか雲の流れはいつもよりも早く、真っ赤に染めた空は血のような禍々しさはなく暖かくどこか寂しさを感じさせる色だ。

「おお、時間ぴったし」
「狙ってたのか?」
「いんや、たまたまだけどな」

空をぼうと眺める、ここから見る空は目上げなくても見え首が痛くならない。

「立ち入り禁止ってあったけど」
「そりゃあ、色々なツテでね」
「へえ・・」

夕日のは結構下の方まで降りてきていて上の方はもう暗い。
夕日の赤と夜の藍色が混ざりあったその色がきれいだ。

「・・・ここはいい場所か?」
「はあ?・・気持ちいい」

狭く寂びれたこの場所が俺はひどく落ち着いた。
アナグラの中はいつも人がいて清潔であるせいだろうか、ここは俺に似合っているように感じた。

「この鍵やるよ」

その鍵は先ほどここを開けるために使ったものだ、リンドウはそれを俺に無理に手渡す。

「一人になりたいときにいい場所なんだが俺にとってはちょっと静かすぎてな」

リンドウは苦笑いを浮かべ手すりに腕を乗せる。
俺は受け取った鍵をポケットに突っ込んだ。

「立ち入り禁止場所の鍵をそう簡単に渡しちゃっていーんですか?隊長殿」
「あー、あれだぞ?内緒だぞ?秘密だぞ?」
「やべーなら渡さなければいいのによ」
「だってトウはこの場所が好きみたいだからな」

タバコに火をつけながらリンドウは言う、俺はそれを横目に見て言う。

「こんなちっぽけな鍵、すぐになくしちまいそうだ」
「言っとくけど、それ一つしかないからな。大切に扱ってくださいよー?」

リンドウはタバコを一服吸いゆっくりと煙を吐くと下を見下ろした。

「さて鳥場トウ君に質問です、ここが立ち入り禁止な理由はなんでしょう?」
「はあ・・?」

少し考える、しかし答えは思いつきそうにもない

「・・整備されてないからか?」
「あー・・それもあるかもな」

俺も下に広がる居住区を眺める。
おれのあんな普通な居住区にいた時もあった。本当に昔のことであるが

「わからないか?口悪少年」
「まだそれで俺を呼ぶのかよ・・」

「簡単な話、ここから落ちたら人は死ぬ。頑丈な神機使いでもさすがに頭から落ちたらダメだろうな。」

「口悪少年っていう呼び名ぴったりすぎるからな」と付け加えてリンドウは言った。

ここから見ると下にいる人間なんて米粒以下だ、落ちようとは思わないが、まあ、死ぬであろう

「この静かな場所できれいな空を背景に此処から落ちる、そんなことをしたかった人間が何人かいたんだろうさ」

寂しげな表情でリンドウは言うが俺はなんとも思わなかった。
空を見ながら死ぬならまだ悪くはないかもしれないが、ここから自分が落ちて死ぬなどいただけない。
きれいな空を背景に?俺はそんなきれいな死に方がしたいわけじゃねえ、死に方を考える余裕があるなら生き方を考える


「あんたはここ使わねーの?」

あまりにも興味のない内容なので話を変えようと疑問を問いかけるとリンドウは少し黙った後に答えた。

「使いたくなったらお前に借りに行くさ」
「めんどうだろ、スペア作ればいいんじゃねーの?」
「えー、口悪少年はそんなに俺が鍵を借りに行くのが嫌なんですか?」
「んなこと言ってねえだろうが」

ここは居心地はいいが景色を見ていると右腕についている腕輪が妙に存在を主張しているように思えた。
なんとなく腕輪を左手で触れる、冷たくて硬いそれ

「・・よし!」

急にリンドウはパッと顔を上げこちらを向く。

「なんだよ」
「もうそろそろ晩飯の時間だし、行くぞ」
「はあー?」
「あと口悪少年、敬語忘れてる」

扉まで足を進めるリンドウは「あー腹へった」とワザとらしそうに言っている。

「あー・・、気のせいですよ、気のせー」
「そうかー?俺の気のせいなのかー?」
「そーです、壮大な気のせーです」

ポケッチからちっぽけな鍵を取り出し閉める、そしてまたポケットに突っ込む。

「ほかの奴らはまだ任務か?どうせだ、第一部隊そろって飯食おうぜ」
「任務入ってないやつらは自然とこの時間に食堂に集まりますよ」
「おっ?そうなのか」
「最近なんでか自然とみんな集まって食ってるんで」
「さすが俺が率いる第一部隊、優秀だな」

自慢げそうに言うリンドウ
来た時と同じようにカツンカツンと音を立てながら鉄の階段を下りて行く。
一人でまたここに来れるように道を覚えておかなければならない。

「まあ、その第一部隊の隊長って人はデートばっかしててそんなこと知らなかったみたいですけど」
「あ、お前、この極東自慢の第一部隊隊長、雨宮リンドウを貶したな!?」
「事実ですよ、おっさん」






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