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感じたことがないなんてことはなかった。
しかしそれについては深く考え込むことは今までなかった。
それは考えなかったというより考えないようにしていたという方が近いかもしれないが。
その差を感じるのが俺は少し怖かった。
そんな思いを俺は更に感情や気持ちが来る前に捨て去る。

「へえ、お前ら出身地一緒なのか」

何とも言えない空気が漂うのを止めるようにリンドウは会話に入り込んだ。

「そうみたい、珍しいこともあるんだね」

嫌な感じだ、同じ居住区のやつが此処にいる。
あそこがどんな場所か知っている奴が此処にいる。
こいつとはあまり関わりたくない、居住区が一緒であったなら尚更

「故郷が一緒か、世間が狭いのを実感するな」
「故郷じゃないよ、ねえ?」
「ああ、違え」

シキに促されすぐに頷く、これについては全くの同意見だ。
あそこの居住区で生まれたわけでもないし育てられた記憶もない。
ただあそこにいただけ、故郷なんて言葉を使うには到底それは間違っている。

「それにー、俺の帰る場所は隊長の所だし?」
「はいはい、その隊長は今不在だけどな」
「リンドウ、うるさい」

不機嫌そうにシキは言う、リンドウは苦笑いを浮かべた。

「トウ、こいつの隊長ってのは・・」
「ちょっと、リンドウ。俺の隊長を勝手に語らないで」
「紹介しようとしただけだろ、相変わらず面倒なやつだな」

リンドウは呆れたようにため息をついた。
俺はシキがその隊長ってのに変に執着しているように見え少し気味が悪かった。
リンドウは慣れているのかいつも通りだ

「んじゃ、俺もうそろそろ寝ないと面倒だから行くよ。じゃあね」

大きく欠伸をしてシキはそう言うと俺を一瞥した後、去って行った。
また急なヤツであったがあまり一緒に居たくない俺にとっては好都合だった。

「おいおい、相変わらずマイペースなやつだな」

遠ざかる背中を見てリンドウは不満そうに呟く。

「いーじゃないですか、別に」
「ん、トウ、お前さてはシキが苦手だな?」
「どーでしょうね」

こうゆうことにリンドウはすぐ気付く、察しがいい。嫌な奴だ

「ついてこい、トウに用事があるって言っただろ」

リンドウは何か企んだように笑うと何処かへの目的地へと足を動かした、俺も黙って隣に並びついて行く。

「っま、シキを苦手な奴は多いからな」
「へえ」
「まあ、トウが苦手だってのは少し意外だったかもな、でもあいつソーマと結構仲いいんだぞ」

エレベーターに乗り込みリンドウは階数のボタンを押した、そこは俺が立ち入ったことのないフロアだ。

「シキの隊長ってのは神耶シオウってヤツだ。トウが此処に来る一か月前くらいにどこか行っちまってよ、支部長は異動としか言わなくてなあ」
「異動?変なことなんですか」
「いや、あまりにも急であったしシオウも誰にも何も言わずに行っちまったからな」

リンドウの押したフロアに到着し、降りる。そして左に曲がり鉄の狭い階段を上る。
あまり人が使わないのか汚れているし錆ている。

「シキはシオウ大好きっ子・・まあ、依存気味だったからな。不安定なんだよ」
「へえ」

聞いてはいるもののあまり興味がなく適当に返事をする。
カンカン、と階段を上る音がよく響いてるような気がした。
こんな上にまで行って何があるというのか、リンドウは用事というだけでその内容は何も言わないので意味が分からない。

「まあ、悪いやつじゃない、滅多にないかもしれないが会ったときは話しかけてやってくれよ」
「やだね」
「・・・同じ土地に住んでたんだろ?」

違う、居ただけだ。そう言いたがったがリンドウがあまりにも穏やかな声で言ったので俺はそれを止める。
住んでいたとは言いたくない、それは俺もあいつも一緒だった
ただ同じところに居た、ただそれだけで何と言うのか。
あそこに居た時に会ったことがあるわけでもないし、俺はあいつは好きにはなれない。
リンドウには悪いが俺には無理な話な気がした。

先に階段を上っていたリンドウが足を止めた。
とうとう目的地に着いたのかと顔を上げるとその先には扉があった。
それもまた鉄で出来た小さな扉だ。
しかしその扉には進入禁止と手書きで書かれた紙が貼られてある。

「きっとトウにとってはいいものだ」

リンドウは笑って言うと胸ポケットから小さな鍵を取り出した。
それをドアノブにある差込口に刺し回す。
カチャリと鍵の開いた音が小さくしリンドウはドアノブを掴みこちらを見てまた笑う。

「良いもん、見せてやる」

扉は薄いくせに重い音を立て開いて行く。
その扉が開く光景はひどくゆっくり見え、そして遠くに見えた。
少しずつ開いていく扉の隙間から光が差し込み薄暗いここだとさらに眩しい、そして勢いのある風が俺に当たる。








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