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「なんですか」
「さっき言おうと思ってたんだが、例の件のこと俺仕事が忙しくてよー、ソーマに頼んだんだわ」

リンドウのさっきというのはアリサの紹介によって遮られた時のことだろう
あまりにもワザとらしい言い方に俺はリンドウは話を受けた時からこうするつもりだったんじゃないかと思ってしまう

「言うの遅くてスマンな」

笑いながら言うリンドウには反省の色なんてものは全く見えない
やはり意図は解らないがやはりこうするつもりだったのだろうか
内心意味が解らないがどこか呆れながらもソーマへと視線を向ける。
だが、ソーマは俺の視線には気づいているだろうに目を合わせることもなく俯いている
俺は特に怒りを感じることも不思議となかったしリンドウよりもソーマで良かったと思っているくらいだ
俺の知らない間に俺の部屋に入っていたというのに怒りの感情が湧いてこないのは自分でも謎だ。

「あー・・ソーマ」

名前を呼べばソーマは顔をあげ視線が交じり合う
透明感のある青色のソーマの瞳を見ながらもっと顔を上げてればいいのになと思う

「世話ありがとうな、あとジャーキーも」

何も考えずただ素直に口から出た言葉
あれ、そういえば俺、素直に感謝の言葉なんて言うことなんてあっただろうか

俺の言葉を聞いたソーマは驚いたように目を見開いていたが俺は自分に混乱していた
そして次に来るのが恥ずかしさ
初めてじゃないのか?ありがとうなんて言葉を口に出すのは
それは自分の変化なのだろうか

恥ずかしく意味は分からなくもうワケがわからない
ソーマから視線をそらし赤い顔を紛らわすために頭をかこうとした、が
両手で持っていた本はバランスをくずしドサドサと音を立て落ちていった。

「あー・・何やってんだ」

プププと笑いながらリンドウはしゃがみ本を拾い始めた

「うっせー」

俺も慌ててしゃがみ本を拾い始める
あー、くそ!
一体なんだってんだ、自分は

「名前、久治朗だったか」

俺と背中合わせになりながら本を拾うソーマがボソッと呟くように話しかけてきた

「あーそうそう、いい名前だろ」

以前そういえば久治朗のもっさもっさの魅力について話したなと混乱した頭で思い出す

「そんなに気に入ってんならまた来れば」

いや、何言ってるんだ自分
混乱しすぎだろ俺の頭
てかソーマを部屋に誘っただけでなんで俺はなんでこんなにパニックになってる訳だ
いや、でもまず俺は人を部屋に誘うタイプではない

ソーマが答える前に本はすべて拾い終わり拾ってもらった本を受け取る
ソーマは無言であるし心はざわついているがイエスでもノーでもまた俺はおかしくなってしまうそうなのでこのまま無言で済ましてくれと俺は思う

「じゃ、行くわ」

逃げるように背を向け早歩きでリンドウ達から距離を取る
まだ顔は熱く心臓はドキドキと言っている、意味が解らない
とりあえず落ち着け、俺の頭と心
今からするべきは勉強だ、すこしでも普通の知識を手に入れなければならない
アリサのこともある、知識も技術も限りなく必要だ
心臓はうるさい、頭はぐちゃぐちゃだ
それなのに俺はやる気が満ち溢れている、徐々に口角も上がってきた

そう、完全復帰まであと少し、少しなのだ。





「あいつは頑張り屋だからなー」

先ほどの「ありがとう」と言った後のトウの慌てようを思い出し笑いながら言う
拾った本は俺たちにとって当たり前のことが書いてあるような内容のものがいくつかあった
アラガミの特性、ゴッドイーターの戦闘技術に関してもあり、あいつは俺が思っていたよりもお真面目なようだ
花の図鑑という可愛らしい本もあったが

「頑張りすぎそうになった時、止まるのはお前の仕事だな」

小さくなるトウの背中を見ながら隣に立つソーマに話しかける

しかし、わかってはいたがソーマからの返答はない
ソーマにとっては重たい仕事だっただろうか、しかしこれはソーマにやってもらいたい仕事である

「・・断る」

少し迷ったように絞り出したように言ったソーマは相変わらず地面を見つめていた
迷ったように言うだけでも結構な前進だな、と内心微笑みながら口を開く

「じゃねーとあいつそのうち無理して死んじまうぞ」

これはウソではない、ゴッドイーターという職ではそれは珍しいことでもない
それにソーマにはもっと前進してほしいのだ、堂々と前を見て歩けるくらいには
トウは心が強すぎる故に自分が自分の限界に気付けないやつだと、俺は思う
キツイとは思っても休憩することもなく限界なんて言葉を知ることもなくただ頑張り続けるようなヤツなのだろう
でも、これは俺から見てのトウであるし実際は違うかもしれないし違えばいいとも思う

「そうならないようにするのがアンタの仕事だろ」
「まあ、そりゃそーだ」

俺の言いたいこと解ってるくせにソーマは意地が悪い

「まあ、俺は言ったからな」

言っておけば少しは気にしてくれるだろう
さて、この話もほどほどにしなけばならない、俺たちには重たくめんどくさい仕事が残っている

「じゃお仕事行きますかね」

俺が歩き出すと少し遅れてソーマがついてくる
俺の後ろを歩くソーマがいつか隣を歩けるようになってくれればいい
何、ソーマは確実に良い方向へ向かっている。あの口悪少年のおかげで
口悪少年もまたソーマのおかげで知っていってる、前進してる
相乗効果ってやつか

この二人はそんなに気にかけなくても勝手に仲良くなりそうだ、それに今日来た新人についてを考えなければならない
それ以外にも、色々と
全くあのお偉いさんは何考えてることやら





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