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この後、サカキの博士に呼び出しをくらっていたが、とりあえず癒しが必要だ。
あのいきなりでいきなりの女のおかげで久々に病室から出れたというのにもうすでにくたくただった。
コウタは、まあ大丈夫だろうと癒しを求めて自室へと戻ることを決めた。
久々の自分の部屋の扉を開ければまず玄関で寝そべっていた久治朗が目に入る
近くでしゃがんでやると久治朗は誰かと寝そべったままこちらへと視線を向けた後、俺だと気付いた瞬間にすぐ立ち上がり尻尾をブンブンをちぎれるのではないかというくらいに力強く振りながら飛びついてきた。
わしゃわしゃと頭を撫でてやり興奮気味の久治朗をなだめてやりながら靴を脱ぐとうまく脱げず転けそうになったがなんとか体勢を持ち直す
部屋の中に入ると4日間いなかっただけなのに異様に懐かしく同時に心が落ち着いた。
いつの間にか自分すっかりここを家だと、安心できる場所だと認めていたようだった
ペロペロと舐めるのを止めない久治朗に顔はべたつくが癒される
「ふう・・」
もうすっかり座りなれたソファに深く腰を沈め久治朗から手を放す
と言っても久治朗は俺の胸に前足をつき意地でも舐めるのを止めようとしない
「ちょ・・落ち着けって」
4日間も顔を合せなかったのはこれが初めてだっただろうか?
頭と顎を撫でてやり腹を見せたら両手でわしゃわしゃとまた撫でてやる
撫でながらソファの横にあるタンスの上にある金魚鉢、きん子をみればそいつはあいかわらず優雅にきれいな色をした尾をヒラヒラとさせながら泳いでいた。
餌でもやるか、と撫でていた手を止め久治朗をどかす、すこし不満そうだが後で構ってやるから
金魚鉢の隣にあるエサ箱を開けると中には俺には見覚えのないものが入っている
取り出してみればパッケージには犬用ジャーキーと書かれており隣には犬のイラストが描かれている
餌やりを頼んだリンドウが買ったものだろうか?安くはないだろうに
そこまで久治朗を気に入ってくれたのかと少し嬉しく思いながら、どうせだしもらっちまおう、と犬用ジャーキーを一つ取り出し足元にいる久治朗にやる
きん子にはいつもの粒状の餌を一摘み取りパラパラと水面に浮かばせた。
水面に浮かんだ餌をいつものように口をパクパクさせながら食べるきん子
ああ、帰ってきたんだな
4日間帰ってこなかっただけであるのに俺はこの部屋に帰って来れたことに安心しているみたいだった。
「やあ、君はいつも私の予想よりも上な行動をしてくれて嬉しいよ」
指を組みニコニコとしているサカキ
「いきなりの呼び出しではあったかもしれないけど、いやあ、こんなに遅く来るとはね」
サカキはいつものニコニコ顔を浮かべてはいるがそこには怒りがあるように感じられた
あの後、俺はきん子をボーと見た後、久治朗を構いに構いまくった結果サカキの指定した時間より1時間半ほど過ぎていた
久治朗を構いまくり満足した俺がなんとなく端末機を取り出しなんとなく時間を確認した瞬間にサカキの呼び出しについて思い出したのだった。
癒しの力は壮絶すぎて仕事のことなんて忘れててしまっていたらしい
遅いと思ったんなら連絡くれればいいのによ、と内心文句言いながら結局悪いのは俺なので「すいませんでした」と謝る
「はい、これ」
そう言ってサカキ博士は机上に積まれていたたくさんの本を指差した
「ああ・・どうも」
そういえば頼んでいたな、と思い出す
あの居住区にいたせいか一般知識が少ない俺は、それを補うためのと神機使いに関しての戦術などの本を貸してほしいと頼んでいたのだ。
「君は偉いね」
「はあ・・」
「うん、偉いえらい」
よく言っている意味が分からず眉をしかめるもサカキは先ほどの怒りをなくしたニコニコ顔をしていた
「そういえばね、例の子どもの身元わかったみたいだよ」
「あ、そうなんですか」
例の子どもというのはあいつのことだろう
俺がこの傷を負ってまで損傷を避けたあの子どもの死体だ
「どうやら兄の誕生日プレゼントに花を探しに来てたらしい」
「花・・?」
「そう、花」
「知らないかね?」と言ってサカキ博士はキーボードを打ち大きな液晶画面に植物の画像を映した
「これが花さ、ちなみにこれはタンポポというやつだね」
「へえ・・」
黄色くてモサモサしている
こんなよわっちそうな植物が存在しているのか
「この時代には滅多に見かけられなくなってしまったけどね」
「俺も初めて見ました」
「きれいだろう?」
「よわっちそうです」
「・・君らしい答えだ」
するとサカキは立ち上がり後ろの棚に並んでいた本から一冊取り出しパラパラとページをめくり始めた
「花には花言葉というものがあってね」
「花言葉?」
「植物に象徴的な意味をもたせるために与えられた言葉、花と言っても樹や草にもあるようだけどね」
ペラペラとめくる手を止めサカキはお目当てのページが見つかったようでそこを読み始めた
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