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「まずその噂ってヤツ、知らねーし」

そう小さな声で言ったトウに少しホッとしてしまった俺がいた
そしてそのホッとしてしまった自分に驚く
こんな態度の悪い新人が自分についての噂を聴いていたってどうでもいいはずだ
自分の悪い噂など今まで何回も聞いたことあり良い気はしないが昔よりは慣れたものだった

隣の男はジュースを飲むのにすごく真剣でそれほどすごい味がするのだろうか
しかしその缶ジュースはただの果汁ジュースでありそこまで真剣に飲むようなものだとは思えない
そんなに真剣に飲み物を飲む様子は少し面白い

隣に座った男にどうすればわからなくただ自分の手にある空になった缶ジュースを見つめる

「この前よー・・」

この前の話と切り出したのでエリックのことだろうかと俺は黙って聞く

「俺の部屋に来たとき見たろ?久治郎」

予想外の話の内容だった
久治郎というのは確か犬だっただろうか
犬の存在は知っていたが本物を見るのは初めてだった
それはちょこまかと動きトウの傍によっては尻尾を振っていたのを覚えている

「ああ・・」
「あいつ、俺以外のやつは近づかねーし吠えたりすんの。お前とリンドウにはそんなことなかったけどさ」

確かに吠えられはしなかったがそんなに近づきもされなかった
どっちかと言うとトウの傍にいたような気がするがそれをトウは覚えていないのかそれとも知っていて言っているのだろうか

「こう、毛がふっさふっさでさーふっさふっさなんだよ」

俺も見たときは触りたい衝動に刈られたのを思い出した
しかし撫でたいなどと言えるはずがなく
どう反応すれば良いかわからずとりあえず黙っておく
するとトウは手でふっさふっさを表すためか手振り素振りを始めた

いや、わかんねえよ


でもいつも「うぜー」しか言わないことで有名な新人がペットについて話しているのは良いと思った
その横顔は微笑んでいていつもは鋭い目が少し和らいで見えてこちらも少し楽しい
トウの痛んだ眩しいくらいの金色の髪を眩しく感じながら横顔を気づかれないように見ながら話を聞く



「ソーマは犬は好きか?」

長々と話していた久治郎の話をトウは終わらせるとこちらに振り向いて言った

「・・まあまあだ」

本当は好きだ
トウの話を聞いて更に好きだと感じた
しかし好きというのはどこか恥ずかしい

「ふーん・・」


「だけどお前の・・」
「お?ソーマとトウじゃねえか」

トウの言葉を遮りタバコを吸いながら現れたのは我らが隊長リンドウだ

「うぜー」

先ほどの微笑みと輝いていた瞳はどこにいったのか
眉間にシワを寄せトウはいきなり立ち上がると缶を自動販売機の隣にある缶捨てに入れた後「じゃあな」と俺に振り返り言うと早足で颯爽と去って行く

トウが一体どうしたのかもわからずエレベーターへと乗り込む後ろ姿を見ているとリンドウはおもしろそうに笑った

「いやいや、へえ・・」

ニヤニヤと俺とトウの後ろ姿を見た後、心底面白そうに呟いた
リンドウはポケットから小銭を取り出すと自動販売機の前に立った


「ソーマ、友達出来てよかったな」

少しの沈黙の後リンドウは言った
こちらには背後を向けているためどんな顔をして言っているのかはわからなかった
しかし声は先ほどの面白そうな声とは違い落ち着いていてリンドウの心からの声だとわかった

「・・友達なのか、あれは」

どうすれば友達になれるのか、どんな関係が友達なのか、情けないことにそれさえもわからない

「俺から見たら仲良さげに見えたけどな」

友達、人との関わりを出来る限りしてこなかった俺にはくすぐったい言葉


「いやあ、良かった良かった」

リンドウの心底嬉しそうな声に俺も何処か暖かい感覚に包まれ変な感じだった










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