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「トウさん、先ほどコウタさんがあなたのことを心配していましたよ」
男がなにかを言おうと口を動かした時にオペレーターの女がこの場の空気を崩した
舌打ちをすると男は俺と話すことを諦めたのか距離をとった
舌打ちをしたいのは俺の方だと思いながらさっさとこの場から立ち去りコウタの部屋へと向かうことにする
オペレーターの女はホッとしたように小さく息をついた
「どーも」
この場が大きくならずにすんだことに感謝しオペレーターの方へ小さく頭を下げエレベーターに乗り込んだ
エレベーターなんてものは今まで乗る機会がなかったため未だにこの浮遊感に慣れない
心配というのだからきっとエリックのことだろう
まだ出会って少ししか日がたっていないというのに、ましてやそんなに会話をした訳でもないのに心配するなんていい奴なのか優しすぎるのか
コウタの部屋の扉の隣にあるチャイムを押すと部屋の中からどったんばったんと忙しそうな音が聞こえた
それから数秒たつと扉があきコウタは俺の顔を見るなりに「おお!」と大きな声で言った
「心配してたんだって?」
部屋のなかのソファーに座らせてもらっているがコウタの部屋はとても片付いているとは言えなかった
ごみ袋もそのまんまで部屋中にはコウタが好きだというマンガのフィギュアがたくさん置いてある
「するに決まってるだろ、任務の同行した人が亡くなったって聴いた。しかも生き残っている方もいい噂が流れてないし」
コウタは少し言いにくそうにソファーの前に置いてある机を見つめながら言った
「あー・・」
どう反応すればいいか少し困り頭をかく
他人をこうも思いやれるとは本当に良いヤツなんだなと少し他人事に思ってしまう
きっと彼の取り巻く環境がそうしたのだろう
「噂とか知らねーけど、一緒に任務行ったヤツは良いヤツだったぜ?」
「噂聞いてないんだ」
「なんかうざってえ男に噂について言われそうだったけどつまんなそうだったし」
その噂というものはそこまで広まっているのか
それこそ新人のコウタまでに伝わるくらいには
「確かにトウはお約束のうぜーで終わらせそう」
少し笑いながらコウタは言った
なんだよそれ、俺がうぜーしか言わないみたいに
「すげーなトウ、俺が気づいてないだけかもしんないけどいつも通りなんだな」
「心配して損した」と冗談風味に言った
いつも通りなのだろうか
とりあえず自分がそのとき悔しかったのだけは確かにわかる
「トウってマンガとか見る?すごいお勧めのがあってさ!」
きっと部屋中に飾ってあるフィギュアが関係しているんだろうなと思いながら俺は答える
「見たことねえ」
「え!まじで!」
「嘘ついてどうすんだよ」
コウタは心底驚いたように言ったあと眩しいくらいに笑って言う
「じゃあ今度貸してやるよ!あ、汚すなよ?」
人に物を貸すのにそんなに笑顔で言えるものなのかと少し感心してしまう俺がいた
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