*泥蠍
*性的表現有につき注意




「退屈だな」


ポツン、呟かれたその一言に、体が、思考が、ピタリと一瞬硬直する。それもそう、これまでの経験上この一言にはとても別の意味合いが込められている事がわかっていた。それはオイラ達にとってはある種引き金のような物であるのだ。


糞面倒ではあるが、現在オイラと旦那はリーダーの命で任務に就いている。内容は至って簡単、資金を蓄える為ビンゴブックを元に賞金首を数人狩って来い、という物だ。そんな事はあの守銭奴のいるゾンビコンビにやらせておけばいいだろうとは言ってみたが、どうにもそれでは足りないらしい。全く、そんなに金を集めてどうするというのだ。まあ、あの糞リーダーの考えなんて元より知ったこっちゃないが。
標的は既に目と鼻の先、しかし疲労も溜まって来ていたし夜も随分更けてきた為暗殺は夜明けと共に決行する事にして、交代で見張りをし仮眠を取る事になったわけで。

そんな中で呟かれた、その一言。勿論オイラはその意味を重々理解している。


「なァ。お前もそう思わねえか?…デイダラ」
「…そうかい?オイラはそうでもないけどな、うん」


ニイ、と妖しい笑みを浮かべる旦那にそう吐き捨てる。ふいと旦那から視線を外し、見上げた空は何処までも深く、碧い。新月なのか月の光はなかった。焚火の薄い明りだけがほんのりと辺りを照らしている。


「まあそう言うなよ…な?」


体がぐいと引っ張られる感覚がして目を見開く。こいつは驚いた。成る程、チャクラ糸をオイラに付けて引っ張ったってワケか。無理やりにでも旦那が引き寄せるものだから、仕方なく自分の足で歩く。ゆっくり、ゆったり。
たっぷりと時間を使って旦那の前にすっと立つと、待ちきれないとばかりに若干息を荒げた旦那と目が合った。本当にこの人は自分の色香ってもんが解ってるなとつくづく思う。


「…ホント、旦那も好きだよな、…うん」


つまり、そういう事だ。






神秘的な深い蒼の夜空の下、チリチリと小さな焚火の薄い光の傍らで獣のような性交。オイラの下で乱れる旦那はいつもながら妖艶で、綺麗だ。あの硬派なキャラで通している旦那が、オイラの前ではここまで乱れてくれるのだから不思議だと思う。
ぐ、と息を詰めて腰を推し進めるとぎゅうと目を瞑った旦那の目尻からじんわりと雫が伝った。それなりに時間を掛けて解してはいたが、それでも本来男性を受け入れる器官では無いそこは容易に受け入れてくれない。実際相当な痛みを伴うのだろうが、それで悦んでいるんだから旦那も相当真性だ。


「っんぅ…ふッ……ぁっ…」


嫌でも漏れる濡れた喘ぎを聞かれたくないのか、ギリリと血が出る勢いで力強く己の指に噛み付く。細っこい、それでいてどこか妖艶さを醸し出す真っ白な指に、滲む赤。その赤を目にした瞬間、ゾクリと何か背筋を這うような感覚を体験した。ああ、オイラ、興奮してる。


「―――っ……」


何とも言い難い感覚。酷くゾクゾクする。旦那のその燃えるような赤い髪も、表情も、滑らかで白い身体も。何もかもがオイラの興奮材料だ。強く噛み過ぎて血のにじんだ痛々しいそれに舌を這わす。手首から手の甲、指の間、そしてそれらを銜えている口へ。呑み込み切れない唾液がぴちゃぴちゃと音を鳴らして、それさえも聞かれたくないのか首をゆるゆると横に振って拒絶を示した。
まあ、オイラがそんな事で引く訳がないが。

旦那はキスが好きだ。現に今も、こうしてやめろとは言っているが抵抗らしい抵抗もしてこない。オイラも旦那とのキスはそれ程嫌いじゃない。寧ろ好きな方の分類に入るだろう。
一晩限りの関係をだらだらと延長したような現状に、このキスという物は唯一これが甘い現実のように錯覚させてくれる。だから、好きだ。きっと旦那もそう思っている。心の内から満たされるような、偽りの充実感、幸福感。そのうち上下左右の間隔すら無くなって、このまま溶けてしまえばいいのに、なんて馬鹿の考えだって浮かんでくる。

けれどそれも、所詮は、夢。一時の幸せなんて幻でしかない。

お互い好き合っているのはわかってる。でも駄目だ。始まりが良くなかった。遊びから始まったこの行為は、今更後悔しても何もかもが遅い。遅すぎた。
だからといってオイラ達は後戻りも出来ないし、それこそ前に進む勇気もない。


「…旦那」
「あっぁ…んっ……ッ…デ、ダラァッ…」


ねっとりとした絡み付くキスに終わりを告げてぎゅ、と旦那の髪に指を絡めて目を瞑る。無駄な感情を持つな。これが最善の選択なのだと、己に言い聞かせるように頭の中で何度も何度も繰り返す。


「……デイ、ダラ」


オイラを見上げてか細く呟く旦那と目が合う。ああ、駄目だよ、旦那。そんな泣きそうな顔しないでおくれよ。オイラが泣きたくなるだろ。
胸の奥から込み上げる全てをぐっと堪えて、水の膜の張った綺麗な旦那の瞳を右手で覆った。



恋人になれない君のキス

20110510

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