*泥蠍泥



まだ、旦那とコンビを組んだばかりの頃。確かこんな話をした事がある。


「オイラ、絶対いつかこの芸術を世間に認めさせるんだ!」


幼いオイラは多分、自慢げにそう話していたんだと思う。
里にいた頃、散々自分の芸術をアピールしたはいいものの、全く相手にされず、それだけではなく散々に否定されていたのが鮮明に思い浮かぶ。それは幼いオイラの心を確実にズタズタに切り裂いてくれた。それはそれは、ズタズタに。
でもこの男なら、と。同じ物作りのこの男なら、オイラの芸術に興味を持ってくれるのではないかと話を持ちかけた。


「まあ、里にいた時は爆弾なんて危険物作り出すオイラの手なんて気味悪がられたりもしたけどな、うん」


あくまでそんな事どうでもなかったように軽い口調で言う。話を聞いてくれているのかいないのか、旦那は岩壁に凭れ掛かり腕を組んでゆっくりと目を閉じた。オイラはというとその横に腰掛けて次々とヘンテコな形の起爆粘土を作っている。今はできるだけ創作時間を短縮出来るように訓練中だ。うん。

中々急いで作るとまともな形にする事が出来ず、「あー、駄目だこりゃ」何て言葉と一緒に今まで作ったものを全部爆破させる。チャクラがうまく練り込めていないのか、小さな花火程度の爆発。
ふと横に立つ旦那に目をやると、ぽん、ぽぽん、と規則的なリズムで白い塊が弾ける態を、薄らと瞼を持ちあげて見ている緑眼と視線がかちあった。

普段なら無表情と言えるその表情から、その時オイラは普段とは違う何かを感じ取ったのを覚えている。
そう、何ていうのかな、言葉では表現し辛いけれど、強いて言うのなら愛しむような――、そんな、顔。


「ふぅん?何でだ?」


ふん、と偉そうな吐息を吐きながら胡坐を掻いて座るオイラの横に踞むと細っこくて白い手首をぐ、と掴む。力は籠められていないし、何だろうと思い旦那の顔をまじまじと見遣る。当の旦那は面白い物でも見るかのようにオイラの手を凝視していた。


「お前の芸術云々は置いといて、綺麗じゃねーか。お前の手」

「……へ?」


思いがけない台詞に、思わず妙な声が上がる。
綺麗?散々馬鹿にされたオイラの手が?芸術が?綺麗だって?
里でも特別チャクラが多い訳でもなければ才能がある訳でもない。いくらオイラの芸術論を語ろうったって、誰も相手にしてくれやしない。認めてもらいたくて必死になって努力だってしたし、仕舞いには里を抜けて問題を起こす事で皆の興味を引いたりもした。

それでも決して、オイラの手が、芸術が、行為が。綺麗だなんて言われた事は無かった。

一体この男は突然何を言い出すんだ、と。訝しげな思いで旦那を見つめる半面、その時しっかりと言いようのない興奮を感じていた。


「お前にとっての最高の芸術を生み出す手だろ?お前にとっての最高の秘宝に変わりねぇんだろ?世間なんて関係ねぇ」


そっと旦那の掌とオイラの掌を合わせる。オイラの小さな手と、旦那の、大きくて柔らかい、傀儡師の手。
傀儡師にとって、命の次には大事であろうその手。確かにそこにそれはあった。――芸術だ。オイラにとって一際輝きを放つその手に合わさるオイラの手は、まだまだ微弱ながら旦那と同じ輝きが見えた、――ような気がした。


「お前の手はキレイだよ。そうだろ…?」


旦那の両手が優しくオイラの手を包んだと同時に、オイラは堰を切ったように泣きだした。









――赤い髪が目に入った。
肌理の細かいその赤は確かによく見知ったそれで。嬉しくなったオイラはその赤に向かって大きく声を上げた。


「旦那!ストップストップ!」
「…あァ?」


相変わらずぶっきら棒に返事と呼んでいいのかわからない返事をして旦那が振り返る。無駄に高めのテンションで迫り来るオイラを見るや否や、げっ、と顔を引き攣らせて溜息を吐いた。何とも失礼な男だな、うん。


「旦那旦那!手、かして!」
「…ハァ?それはどういう意味だ、デイダラ。もげばいいのか?」
「ちょっ…違っ、やめ!やめろって!もぐなもぐな!」


言葉の意味を履き違えたのかはたまたわざとかは知らないが、傀儡の姿をいい事に右手首を取ろうとする旦那を制止する。何でもかんでも無表情でやってのけるから危なっかしい。死ぬ事は無いと解っていても、それはそれで気味が悪い物がある。

「はぁ?じゃあどういう意味だよコラ」
「…普通に手出せって言ってんだよ、うん」


左手をパーにして旦那に向ければ、何だ何だと妖しがりながらもその掌に旦那の右手を合わせてくれる。――あ、旦那の手、小っさい。
オイラの手よりも一回り程小さい旦那の手。昔はあんなに大きく感じたのに、そうか、旦那の手ってのはこんなにも小さいもんだったのか。
かつてのオイラを力強く後押ししてくれた手。思えば、旦那のあの時の一言が、今のオイラを作り上げてくれたようなものかもしれない。旦那のお陰で自分の芸術を信じてここまでやってこれた。そう考えると胸の辺りをぐっと押すものがある。


「………へへっ」
「…はっ?オイ、何だよ、何笑ってやがる。気持ちわりぃ」
「…へへ……へへへっ…!もう泣かねーぞ、うん!」
「何意味わかんねー事言ってんだよ…オイ、遂に頭イカれたか?」


依然と変わらず神々しい輝きを放つ旦那の手をぎゅっと握って、違げーよ馬鹿、とかなんとか哀れみの視線を向けて来る旦那に一言吐き捨てると、訳わかんね、といじけたような台詞が返ってきた。
握った旦那の手を更に力強く握りしめ、沸々を湧きあがるこの感情をどうにか吐き出したい一心で、これから旦那の部屋にでも行って互いの芸術でも語るか、うん。

ああ、なんて、


(――芸術は奥が深いんだろう!)


芸術論


20110501

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