*鼬鮫 *性的表現有につき注意 *色々と酷い。特に鼬兄さんのイメージを崩したくない方はback推奨。 暗闇に響くのはがチャンがチャンという虚しい金属音、次いでくぐもった低い声。 薄暗がりに浮かんで見えるのは金属製の鎖で縛られた自らの両腕と、真っ赤な瞳をどす黒く濁した最愛の人。ああ、可笑しいな、涙で視界が霞む。 イタチさんは今、何を想っているのだろう。 口を布で塞がれて、ヒィヒィと悲鳴を上げている私を見て、何を考えているのだろう。 そもそも見ているのだろうか。その焦点の合わない暗い瞳には私は映っているのだろうか。 イタチさんは人一倍、独占欲とかそういうものが大きいと思う。 私は彼が好きだし、彼も私を好いてくれている。此ほど嬉しい事はないし、お互いにそれは解っている物だと思っていた。 だがしかし、イタチさんにはそれがあまり伝わっていなかったようだ。例えばだが、ほんの少し他の暁メンバーと話をしただけで過激な程の詰問を受けるし、イタチさんと二人で居るときに少しでも邪がさせば容赦なく首筋に噛みついてくる程。 今日も今日とでほんの些細な事で彼の癪に触り、酷く手痛いものを耐えねばならないという状況に陥ってしまった。 何がどうしてそんなに癪に触る事だったのか解らない。きっとまた些細な事で怒らせてしまったのだろう。例えそれが思い出せない程の事でも、彼の中では重大な事であったことには限りないのだ。 「っ−−、ふ、ぅっ−−!」 それにしたって、今日のは流石に酷い。 恐らくサソリの奴が作ったのだろう。超強力な媚薬とやらを、喉を通すならまだしも、液状のそれを直接太股に打ったのだ。 直接的な投与は想像よりも遥かに効果を示し、断続的に自身を快楽という名の檻で戒める。何度絶頂を迎えても熱は冷めない、どころか益々熱くなる一方だ。 いかほどに強力な薬なのかはわかる。それと同時にどれほど彼が怒っているのかも解った気がして、何ともいえない罪悪感が脳裏を埋め尽くした。 彼にこんな顔をして欲しい訳じゃない。笑っていて欲しいだけなのに。 「ヒぃッ…ん…んぐぅ…っ−−」 「鬼鮫…鬼鮫…ッ」 「−−ッふぐ…はっ、がはっ、はぁッ…は…」 口を塞いでいた黒い布が取り払われ、息苦しかった所に酸素がどっと入り込んで軽く咽せた。 痛い。当て布もなく縛り付けられ擦れた手首が。 痛い。これでもかと張り詰めたもう一人の自分自身が。 痛い。…彼の哀しげな顔を見るとどうしても胸が痛くなる。 嗚呼、どうか神様というものがいらっしゃると云うのなら、どうかこの人を笑わせてあげてください。私にはどうする事も出来ない。この人に笑顔を与える方法を知らないのです。 「鬼鮫……」 「イタ、イタチさっ…、ごめんなさい、ごめんなさぃい…っ!やめ、てください…許、し…っ」 私は罪悪感に押しつぶれそうになりながら、謝ることしか出来ない。これくらいの罰、文句の一つ言わずに受け入れなければいけないのだと思いつつも、この苦しみから早く逃れたくて許しを請う。何と卑怯なのだろう。 譫言の用に謝罪と許しを請う私の口。イタチさんは恐ろしい目付きで私を一睨みするとフッと今にも泣きそうな顔に変わる。ごめんなさい、許して。何度も何度も。 「ハァっ……鬼、鮫…」 「ひぃぅうぅッ…あァっ…は、はァ…ひんっ…!」 少し黙れとでも言うように、ぎうと力任せに性器を握られて。鈍い痛み、それよりも強い快感に襲われれば霰もない声が上がった。薬の力も有り、痛みさえ快楽と受け取る。そんな自分が醜くて、溢れ出る涙は留まることを知らない。 「鬼鮫、俺を見ろ…俺だけを…」 「んぅ…ッ…も、ハァッ…も、やらぁ…ぐっ…」 「俺の鬼鮫…俺だけの…」 イタチさんもまた譫言の用に私を呼び、私を求める。とても嬉しい事の筈なのに、名を呼ばれるととても苦しくて辛い。 求めないで。私は何も返すことが出来ないのだから。どうかどうか求めないで。 「いだちさっぁ…ん、ん−−ッ!アナタのですからッ…私はっ…はぁ、は…だからっ…もッ…!」 だからもう、−−何と言おうとしたのだろう。出掛かった言葉が喉の奥でつっかえる。何とか絞り出そうとするも、程なくしてイタチさんの柔らかくて形の整った唇が私の唇を塞いだ。私のそれはお世辞にも綺麗とは言えず、カサカサに皮が剥けていた。 どこまでも汚いんだな、何て自虐的にさえなる。 「………鬼…さ…」 長い口付けを終え、ハッとしたように私の名を呼ぶ。その目はどこを見ているのか解らず、空中を白く細いその手がさ迷った。求めるようにして伸ばされたその手を見て、少し戸惑う。 私はこの手を取っていいのだろうか。何も返せない、与えられない私が、この手を。 ガシリとさ迷うその手を縛られた両手で掴んだ。考えるよりも先に、手が動いていた。そして直ぐに答えは出た。 「っ…ハイ、はぃッ…イタチさん。何、でしょうっ……」 満面の笑みを浮かべてみせた。自分に今出来るのは此くらいだろうと思ったのだ。ぎゅ、と握る手に力を込めると安心したかのように弱く握り返した。疲れたのかそのまま私の上で寝てしまったようだ。全く、疲れたのは此方だと云うのに。 薬に浮かされた体は中々熱が抜けず、あまりの怠さと疲労感により、同じようにくたんと意識を失ってしまった。 イタチさんが望むのなら、私は喜んでアナタの檻に入りましょう。 例えそれが身を焦がすような選択であっても、幸福であることに変わりはありませんから。 ――独占欲 20110501 |