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「う、あ゛……っぐ……は、あっ……」
「ナッツ君!?」
「お、おい、大丈――」

駆け寄ろうとして、誠ははっとした。ナッツは息苦しそうに喉元に手を添えており、ひゅうひゅうとか細い空気音が口から漏れる。しかし、手の上で燃える火は、豆粒のように小さくなっていたが、ちらちらと確かに点っていた。

「ナッツ、一度火を消した方が良い」
「……!」

ナッツは勢い良く、真っ青になった面を上げた。クレイの心配そうな赤い瞳と、視線が合う。小さな灯火は、おそらくナッツが一度イメージを放棄すればすぐに消えるだろう。マッチの火よりも弱々しい火は、ホールに風が吹けばあっという間になくなってしまう程だ。肩を持って彼を支えているクレイの手に、僅かな力がこもる。
それでも、ナッツは歯を食い縛った。
体が拒否しているのか、腕ががたがたと震えを起こしている。それに無理矢理鞭を打ち、彼はクレイから一歩離れると、ふらりと体が傾くことを恐れず、手のひらを差し出す。

「も……すこし、あと……すこし……っ!」

喉が枯れたのか、ナッツの声はかすれていた。聞き取るのも困難だったが、無邪気な彼の姿とはうってかわり、そこにいたのは自分の限界に立ち向かう一人の人間だった。険しい顔付きと凄まじい気迫に、近くにいたクレイの皮膚に、ビリビリとした何かが伝わってきた。引き留めるようなことは、到底言えたものではなかった。
くるん、と丸まるように、火が円を描く。豆粒サイズだったが、ナッツの手の上で燃えるそれは、まさしく、火の球以外の何物でもなかった。
ほう、と優しい息が吐かれて、ナッツの表情が一気に和らぐ。それを合図に、誠は大きくガッツポーズをして、喜びや心配や様々なもので頭が真っ白になったまま、強く強く地を蹴った。

「よっしゃあ!やったなナッツ!あとは的に投げるだけだ!」

ナッツの隣に立った誠は的を指差しながら、満面の笑みでナッツに笑いかける。ナッツは肩で荒く息をしながら、汗だくなのにも構わず微笑んで、こくりと頷く。拙い足取りで一歩を踏み出し、そして……真紅の床に、倒れ伏した。まるで糸が切れてしまったマリオネットのように。
ナッツの限界とリンクするように、小さな小さな灯火は、しゅう、と燃え尽きたように消えてしまった。



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