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「放て!我が力よ!」

小さいながらも確かに燃え盛る火の球は、グランの手から離れ、的の中央に当たる。すると、木製のはずの的は燃えることなく、水でもかけられたかのように消えてしまった。

「……あ、その的火の耐性強くしてるから、よっぽどのことなければ燃えねえよ」

的に当たった喜びよりも木が燃えない矛盾に眉を潜めたグランに、ネイティがあっけらかんと言い放つ。グランから文句のひとつでも飛び出しかねない中、ぱちぱちと乾いた音が、不穏な空気を切り裂くように響いた。

「お見事です、殿下」

穏やかな声と、賞賛の言葉。それに嘘の色は見えない。ダーマがにっこりと微笑むのを見て、周りに集まっていたギャラリーは口々に誉めちぎった。

「流石ダイヤモンド家のご子息!」
「素敵ですグラン様!」

グランの周囲がざわめきに包まれる。しかし、彼はそれらが耳に入らない様子で、己の近衛騎士を見上げる。

「見事?それは当たり前だ。僕はお前に仕えられる主。僕が強く、気高くあればあるほど、お前は僕を守ることに誇りを持つ。どうだ、誇らしいだろう?」
「はい。このダーマ、殿下をお守り出来る事……心から誇りに思っております」

自信たっぷりに、グランはにんまりと口を歪める。反面、グラン達の輪から意図的に離れた場所で、一人の男が忌々しそうに唸った。

「あー……いけすかねー……」

その様子たるや、まるで路上をさ迷うミイラのようだ。げっそりとした表情に、枯れた声。せっかくの顔が台無しになっている。そんな誠に、ナッツは一つ浮き上がった疑問をぶつけてみる。

「マコト、そんなにグランのこと嫌いなのか?」
「嫌いも嫌い、だいっきらいだ!あーいう自分大好きで他の人間どうとも思ってないサイテー人間、俺は好きだけはなれねーな」

グランを睨み付けて歯ぎしりまでする誠に、隣に立つライチが苦笑する。円を作るように集まっている五人は、徹底的にクラスの輪から外れつつあった。

「でも、すごいよね。僕いまいち、火の球が出ないもの……」

ライチは手のひらを目前に差し出し、それをじっと見つめる。……が、その上に火がともることはなかった。ライチの口からは小さな溜め息がこぼれる。

「ったく、もっと分かりやすく説明しろって話だよなあ」

先刻からの流れで、誠からも不満が漏れる。そうして、ルカはクレイにこそこそと耳打ちをした。



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