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時は変わり、翌日。クレイ達は遅刻者もなく、初めての授業を受けていた。先日の事件を止めた担任が、淡々と感情もなく、書かれている文章を読み上げる。

「世界はマノで出来ている。魔法を扱うにせよ、世界を扱うにせよ……まずは、そのことを悟らなければならない。私達はマノへの感謝の気持ちを忘れず、マノの加護によって生きていることを……ハア……めんどくせえ……」

ぱたん、とわざとらしく音を立てて、魔法学の教科書が閉じられた。がしがしと荒く掻かれる頭は相変わらずボサボサで、整えられた形跡は微塵もない。聞いているだけでやる気が削がれる彼の名は、ネイティ・ブルース。先生、しかも担任だというのに、肝心の生徒達からの視線は……あまり良いものとは、言えない。

「この学園で学ぶのは、こーゆーのじゃねえっての。なあ?」
「え……は……はあ」

気だるげなネイティに藪から棒に尋ねられた最前列の男子生徒は、教師に対する不信感丸出しの表情で曖昧な返事を返した。煮え切らない返しにネイティは肩を竦めると、教卓に教科書を放り出す。希望を胸に真新しいそれを持つ生徒達は、動揺を隠せない。それはクレイ達も例外ではなかった。

「な、なんだってんだ?あの先生……」
「不思議な人だね、教科書を使わないなんて」

誠とライチは顔を突き合わせ、ひそひそと小声で話し合う。最初は小さかったざわつきが、波紋を広げ、段々と強まってくる。中には身勝手な怒号を上げる人間も現れ、耳障りな騒音にクレイとルカは眉を潜めた。

「よく聞けガキ共」

「脳」に響いたそれに、ぴたっと教室が静かになった。気だるげだったネイティの言葉が、今は磨がれたナイフのように鋭さを増して、皆の不信感に大きく切り込んできたからだ。ネイティの睨むような目付きに、教室全体が縮こまるようだった。

「今、俺は魔法を使って、直接お前らの脳に語りかけている。魔法っつーもんは、知識とイメージ、マノと体力さえあれば、大抵の事は出来る。魔法を覚えた瞬間、お前らはいつ神と崇められるようになっても、世界を滅ぼす化け物になってもおかしくはねえ。それだけ覚えとけ」

耳という器官を使わないぶんか、ネイティの言葉はクラス全員の心臓に重くのし掛かった。気の弱い生徒は顔面蒼白で卒倒しそうになっており、グランは腕と足を組んで、ネイティの口から神という単語が出た時に、にんまりと笑った。



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