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「なあ、マコト。……マウンモットって奴、知ってるか?」

目線は図鑑に向かわせたまま、穏やかな口調でナッツは呟いた。今から語られるナッツの壮絶な過去を期待していた誠は、拍子抜けをして口が半開きになる。

「ま、まう……?」
「マウンモット。こいつのこと」

ナッツは慣れた手付きで図鑑を捲り、あっという間にそのページを開いた。誠は横から覗き込む。ボールに黒ずんだ茶色い毛が生えたようなそれは、よく見れば黒くつぶらな瞳がふたつ、申し訳ない程度に付いている。壁に投げれば弾んで返ってきそうな毛むくじゃらに、誠は眉を潜めることしか出来ない。

「何だこりゃ……こいつも魔物なのか?」
「うん。マウンモットは、世界で一番弱い魔物って言われてて……よく魔物の実験とかする時には、一番に実験台にされる。でも、俺、こいつが一番好き。……俺とこいつは、似てるから」

ナッツの指先が、図鑑に描かれた毛むくじゃらの絵をそっとなぞる。ナッツは笑顔だったが、教室の時と同じ、彼が「貴族」である事をまざまざと見せつけられるようなものだった。

「似てるって……」
「そのまんまの意味。言ったけど、俺生まれつき体が弱いんだ。……ううん、正確にはちょっと違くて……体の中にあるマノが、すごく少ないらしいんだ」
「はあ……」

誠は気の抜けた返事を返す。この世界について詳しくない彼にとって、それがどれだけ重大なことなのか理解出来なかったのだ。

「ルカとか、魔法使ってただろ?俺……そうだなあ、記憶石の説明の時ルカが出してたあの棒。あれを出すだけで、倒れちゃうと思う」
「え……は!?」
「昔は体力もなかったから、ずっとベッドにいた。こんな街に出ることも出来なかった。学園になんて、絶対行けなかった……昔の俺は、ただの実験台だったから」

ゆっくりと目を閉じるナッツの姿には、どこか憂いが感じられる。誠は一瞬、声というものを忘れて、目を閉じるだけの動作に見入った。



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