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「っ、そうだ。お前、あの教室の時!あの電気ボール!」

電気ボール。それを聞いたナッツの瞳が、ぐらりと揺らいだ。荒波のように揺れる曇天の瞳が、おぼろげに誠の神妙な顔を捉える。誠は一瞬だけ気が引けたが、強く拳を握り締める。すると、本人でも驚くほど落ち着いた心臓の動きが、手に取るように分かった。
どくんと、耳の奥に響く、どこまでも低く深い音。

「あの時、お前……なんで……あんなすぐ俺を庇えたんだよ?それに……台詞、俺は忘れてねーぞ。当たったらすごく痛いって。……なんで、知ってたんだよ?」

ナッツは誠からさっと目を反らした。彼の瞳は今にも涙がこぼれそうだった。いつもの無邪気な笑顔が嘘だったのではないかと思えるくらいに。
ナッツはふと息をつくと、カウンターの椅子に腰かける具合の悪そうなクレイとそれに話し掛けるライチの様子を見計らう。そして、誠の腕を掴むと、力強く引っ張って歩き出した。

「うおっ!?おおおい、ナッツ!」
「ごめんマコト。……そこまで言われたら教えなきゃだけど、あんまり知られたくないんだ」

ナッツは小さく小さく、学園に咲く桜のように儚げに苦笑する。誠は再び、ナッツの奥にある何かが、すっと頭の中を通り過ぎていったような感覚を覚えた。

二人がたどり着いたのは、先程クレイが囚われていた生物のコーナーだった。ひとつの本棚は空っぽになっているものの、その横にあるそれには、辛うじて数冊残っている。彼は誠を解放すると、その中の大きくて分厚い図鑑を手に取った。

「これ。……懐かしい。家にあったやつだ」
「……おお」

誠は煮え切らない思いを両腕に抱えて相槌を打つ。先刻のやりとりがなかったかのように、ナッツが図鑑を開き始めたからだ。



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