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「はー……ったく、教科書買うだけだったのになんでこんな事になってんだか……」

きらりと赤く光る粒を、誠はひょいと投げては再び自らの手に収める。積み上げてあった教科書の束五つは、しっかりとその中に収納されていた。ふと、誠は暇潰しの作業をやめて、扉に耳を押し当てているナッツに目を向けた。

「普通こういうのって学園で配るんじゃねーの?……で、お前は何をしてんだ」

その視線は、外のシンボルである噴水のようにひんやりとしている。ナッツは聞き耳を立てるのをやめると、どうにも附に落ちない顔をして首を傾げた。

「さっき、ガタガタって聞こえたから何かあったかなって」
「大丈夫だろ。……あいつ……なんつーか、普通じゃねー感じだし」
「え?そっか?」

不思議そうに瞬きするナッツに対し、誠は扉をちらちら気にしながら、荒い手付きでぼりぼりと頭を掻く。

「よく考えてみろよ。てか、さっきの見ただろ?いつもはへらへらしてるくせに……口調も、雰囲気も、全部違ってたじゃねーか。絶対なんかある」

野獣のような瞳。溢れ出る殺気。目が合ってもいないのに、体が石にされる威圧感。思い出して、誠の身体中に氷が駆け巡った。ぞおっと寒くなり、暖を求めて全身を震わせる。
そんな彼をよそに、ナッツはあっけらかんと口を開いた。

「それだけクレイが大事だったってことじゃないのか?」
「へ?」

誠の美しく整った顔が間抜けに歪む。ナッツは大きく手を広げて、無邪気な笑顔を見せながら続ける。

「師匠が言ってたんだ!人間は大事な奴がいるかぎり、いっくらでも変わるんだぞ!って。俺、思うんだ。あのときのルカ……無茶苦茶クレイのこと気になってたんだって。……いいなあって思った」
「……お前」

ナッツの表情に、一瞬だけ影が射した。ほんの一瞬だったが、誠は確かに見逃さなかった。教室でのやりとりが、瞬時に彼の脳に浮かび上がる。
グランは、ナッツの事を確かに、こう呼んでいた。「落ちこぼれ」と。その五文字の烙印だけで、ナッツは貴族からの印象がどう変化したのだろうか。あんな殺伐とした空気で、果たして大事な人など作れたのだろうか。訊かなくても、答えは明確だった。



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