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「……でもね」

ぴたりと、笑い声が止んだ。瞬間、ルカの顔から感情が消えた。目には虚無しかあらず、どの顔のパーツからも何一つ気持ちが見て取れない。それが恐ろしくて、老人は背筋を凍らせた。

「俺が世界一神に愛された子なら……クレイはきっと、世界一神に愛されなかった子なんだよ。あいつさ……何もしてないのに、貴族のせいで人生狂っちゃって、変わっちゃって……それなのに全部自分のせいだって思い込んでる。馬鹿でしょ?だから俺はあいつを守らなきゃならない。九年前のあの日から、心を縛り付けられてるあいつを……。昔はさ、もっと笑ってたんだよ。それが……」

ぐっとルカの声のトーンが低くなる。老人は、全身に槍を突き付けられたような殺気を感じた。重力に変わりはないはずだが、体が重い。指を動かそうにも、ぴくりとも動けば見えない槍に貫かれる錯覚に、酔いそうになる。

「俺は……貴族を許さねぇ。あいつに大きすぎる傷を負わせた貴族を……俺達の居場所を奪った貴族をな。そのために俺は生きてるし、死んでも死に切れねぇ。俺は魔法の天才で、クレイの心を九年前に束縛した貴族を殺す男だ。……満足した?」
「ああ……十分過ぎる程にな」

最後に軽薄な口調で尋ねれば、さっと老人の周りから槍が引いた。ルカは彼の答えを聞くと、にこにこと無邪気に笑った。

「そう?それなら良かった」

否、無邪気を装った笑顔。その奥にあるルカの正体を垣間見た老人は、話の途中止まっていた息を大きく吐き出した。



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