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かたん、と、『立ち上がる』音がした。机の脇に積み上げられた本と羽ペンが、ぴしっと机の上で軍隊のように列を作る。老人の後ろでも、がたがたと物音がした。勢い良く彼が振り返ると、なんと、背後にあった記憶石の棚が、同じように列を為している。更に、ルカの背後でも、古い本棚達は律儀に整列していた。

「わ……わしは……夢を見ているのか……」
「残念ながら、全部現実だよお爺さん。城の兵士のイメージを宿らせてみたけど……面白いね?この魔法」

青ざめる老人とは正反対に、ルカは至極穏やかな表情を見せた。

ひょいと羽ペンをつまみ上げると、列を乱された本達は怒りその場で飛び跳ねて、羽ペンはルカの手を逃れようとじたばた暴れる。薄い唇にくすりと綺麗に弧を描いたルカは、今一度唱える。

「レガハロ」

一斉に本達は倒れ、羽ペンはぐったりと動かなくなった。それは小部屋にある列全てに該当し、微妙な距離を揃えていた棚は、皆死んだように静かになった。

「……そんな……これだけの量の物……しかも背後にある物にまで、リスケルツを使ったというのか……?」
「まあね。ああ、棚とかの向き戻さなきゃ」

ルカはわざとらしく声を上げると、机の端をトントンとノックする。――一瞬だった。瞬きが始まってから終えるまでの間に、小部屋のモノ達は一瞬にして向きを元に戻し、位置を戻し、まるで何事もなかったかのように取り繕ったのだ。ぽかんと間抜け面をする老人を前に、ルカは頬杖をついて、柔らかく目を細めた。

「びっくりした?今のはただの『操作』だよ。……お爺さん、俺はね、今まで一度見たり聞いたりした魔法を失敗させた事がないんだ」
「なんだと!?そんな事――」

ある訳がない、と言おうとして、老人は口をつぐんだ。先程説明したばかりで、一度も練習していなかったリスケルツを自分のもののように扱うルカを見たら、否定出来なかったのだ。

「世界は広い。でも、俺に出来ない魔法はひとつもない……魔法の天才。それが俺の正体。昔は世界一神に愛された子とまで呼ばれてたよ」

くすくすと、ルカは小さな笑い声を立てる。だが、それは、昔付けられた称号を嘲るような笑い方だった。



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