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「……俺は……?」
「クレイ。……もういいから、外に出てなよ。……ここは俺が……なんとかするから」

混乱するクレイに、ルカはそっと耳打ちをした。クレイは大人しく頷くと、ぐらつく頭を押さえてふらふらと立ち上がる。

ばたん、と扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。ルカが扉の木目をなぞると、背後からの低音がルカの腹にのし掛かる。

「悪いことをしてしまったな」
「別にお爺さんのせいじゃありませんよ。今日は貴族とも会ったし、スコールさんのこともあったし……あ、でもこれでさっきの年寄り発言はチャラって事で」

ね?とルカは再び椅子に座りながらウインクをする。そのままだらりともたれかかれば、老人は静かに眉を潜めた。

「先程凄まじい形相で人を揺すっていた奴とは思えんな」
「そりゃー家族ですもん。お爺さんだって目の前で家族倒れられたらびっくりするでしょ?それと同じ」
「ほう。……話をずらそうと思ってもそうはいかんぞ」

老人は適当な相槌を打つと、ルカを睨み付ける。ルカは苦笑していたが、その胸の内で舌打ちをしたことは本人以外は知らない。
ルカは腕を組むと、どっかりと椅子に座り直し、高圧的に老人を見下した。

「クレイのことなら、俺は絶対に教えませんよ。……俺は基本的に疑り深くてね、ここからクレイの情報が広がったらたまったもんじゃないから」
「なるほど。しかし、わしは光と闇の生物対比百種の調べを放棄することも出来るぞ?」

お互いに、くつりと喉を鳴らして挑発的に笑い合う。嵐でも吹き荒れそうな空気は、彼ら以外の人物がいたらすぐにでも逃げ出したくなる程に重く、苦しいものだった。

「そうだよね。だから代わりに……俺の事を教えてあげる」

ルカは悠々と目を閉じると、天高く、右手を掲げる。人差し指と親指を擦り合わせ、歌うように口から音がこぼれる。

「――リスケルツ」

パチン――……。ルカの指から奏でられる一際高く短いメロディは、小部屋のありとあらゆる場所に反響した。



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