15


「――ただし、条件がある」

老人の目が、すぅっと細められた。何かを探るような目付き。何かを試すような、眼差し。威厳ある姿は、そこに王でも座っているようだ。記帳を閉じて、老人は青年達に問う。ただの本屋の店員には存在しない光が、彼から無尽蔵に放たれている。

「赤髪の若造。お前は、何者だ?」

びくんとクレイの肩が跳ねた。その動きは、ルカの手のひらが媒体となり、彼の相棒にもすぐに伝わった。クレイは目線を反らして俯き、口を閉ざす。代わりにルカは、老人ににっこりと微笑む。

「何者って……やだなあお爺さん。俺達は」
「学生という事は訊いておらん。わしが知りたいのは……もっと根本的な……お前達の奥にある正体だ。本をしつけて数十年……こんな事は前代未聞。しかしこう考えれば納得がいく。……あそこは生物のコーナーだ。そこの若造が、あそこにあった本が興味をそそられる程の者だったなら……?我を忘れ襲い掛かる可能性も出てくる」

クレイは、ふせっていた面を僅かに上げた。歳に不相応な鷹の目よりも鋭い眼光に、胸が射抜かれる。心臓の中にある危険信号が反応し、サイレンが鼓膜の奥に響く。

キンキンと金切り音を鳴らす。

射殺される。 凍らされる。 脳が、手足が、蝕まれる。


(言ったら……俺は……おれは……?)


裏切り者。裏ぎり、うらぎり、うらぎったもの。
ひとみ。つめたくて凍える、氷よりも、どんな山よりも、吹雪よりも冷たい瞳。
炎。キンキンとうるさい、耳にわるい、男もおんなもキンキンどなっておこったまっかなほのおみたいな声。


『おとうさん……』


クレイは、ぽっかりと空いた暗闇の穴の隅っこに座り込み、くしゃくしゃな顔ですすり泣く、赤い髪をした幼き子を見た。

『ぼくは、だめなこ……?』



「クレイっ!!」

はっと、目が覚める。
悲痛な怒鳴り声が、クレイを闇から小部屋に引き戻した。……ぼんやり揺れている視界は、黒ずんだ木材製の天井と輝く金色を映している。

「……ルカ?」
「ったく、この馬鹿……っ、だから外に出てろって、言ったでしょ……」

そう言うルカは、眉を下げて、唇を震わせて、何とも情けない顔をしていた。……あのルカが。
クレイの後頭部には、ルカの手のひらの暖かい感触があった。体の力は抜けて、だらんとしている。自分は倒れたのだと彼が理解するまで、しばらく時間がかかった。



15

next→





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -