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「スコールさん……クレイのお父さんが書いたなら…………クレイ、辛いなら外出てても良いんだよ?」

じんわりと染み込むような柔らかな口調で、ルカは隣に座るクレイに呼び掛けた。未だ顔を青ざめるクレイは、俯きながらふるふると首を横に振る。その幼子のような態度に不安を抱きながらも、ルカはたどたどしく口を開けた。

「……クレイのお父さん、スコール・ヴィオラさんが書いたというのは……有り得ないんですよ。忘れもしない……もう、九年前に、その命を、落としてしまったから……」

ルカは言葉を選び、それらを慎重につぎはぎしていく。その目線は、ずっとクレイに落とされている。人知れず、ルカは爪が手のひらに食い込む程、拳を握り締めていた。

「加えて、『あの時』……俺達の家は燃やされた。三年後に本になっているはずがないんです。生き残っている事は、絶対にない。……それは、俺とクレイが……一番よく知ってる」

ルカはせめてもの慰めに、クレイの肩に手を乗せた。クレイは底から沸き起こる何かに耐えているのか、ぐっと歯を食い縛り、体の震えを抑えようと膝を殴り付けた。話を聞いた老人は、生真面目に眉間の皺を増やして頷く。

「……ふむ。確かに、わしは様々な本を見てきたが、一冊の本が製本されるのに三年以上かかるはずがない。しかし、六年前に発行されたのは事実……か」

老人は二人を刺激しないよう静かに立ち上がると、棚にあったオレンジ色をした記憶石に触れる。淡い光と共に、机の上に古い記帳が現れた。黒い表紙も中の黄ばんだ紙もボロボロで、どれだけ年期が入った物か分かる。
老人は、それをつまんでゆっくりと開いた。

「六年前か……興味深い。今日の詫びに、わしがその本の詳細と真相を調べておいてやろう」

ばっと二人の顔が驚きの反動で上がった。恐ろしい程に揃っていたため、老人は更に二人に対して好奇心がくすぐられた。



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