13
「……似ているんだ」
ぽつりと言葉が落ちて、空気の中に弾ける。それから、クレイはゆっくりと首を横に振る。
「いや。……似ているなんて、ものじゃない。冒頭の文といい、中身といい、同じなんだ……!父さんがしていた研究と……」
「えっ、ちょ、待ってよ!!」
ガタンと荒々しく椅子が後退する。ルカがクレイと同じく、顔色を悪くして立ち上がったのだ。余裕たっぷりな笑みはとうの昔に消えており、小部屋に電気が張りつめる。
「だって、まず名前から……。……ねえお爺さん、本に偽名とかって使うことあるの?」
「それはない」
老人は冷静に、はっきりとした声で否定した。そして羽ペンをつまみ上げると、呪文を小さく唱えてひょうきんな動きを止める。
「物語なら別だが、このような本は責任を伴うため、本名で出す事を義務付けられている。可能性は限りなく低いだろう」
「それなら、この本の中身はどう説明がつくんだ!?」
クレイの拳が、古びた机に強かに落とされる。呼吸を正し、うってかわって必死に睨みながら、彼は続ける。
「……悪魔と天使の事を事細かに調べることは、本来ご法度だという話を父から聞きました。白竜族と黒竜族のことも……そう誰にでも出来ることではないと。だからこそ、父は誇りを持っていました。この研究は自分にしか出来ないことだと言っていました……」
「若造、少し待て」
羽ペンを元の場所に戻し、老人はクレイの言葉を遮った。それから本とクレイを何度か交互に見やると、手を口元へ持ってきて考える素振りを見せる。
「……その本をお前の父親が書いたというのなら、確かに辻褄は合う。思いを込めて書かれた本は、それだけ強い命が宿る。本は著者の化身のようなもの。お前に最後まで頑なに張り付いていたのも納得がいく」
「でも、ちょっとたんまお爺さん」
ルカが軽く挙手をすると共に、口を挟む。
13