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まずこの本を読み進める際に、ひとつ頭に入れておきたい事がある。この世には様々な種族が存在し、絶滅危機種と言われるものから増えすぎて共食いを始めるものまで、この同じ地で息づいている。
そして、その育ち方もまた様々であり、この本で一概にその種族の気性の荒らさや生態が決まるとは限らない。これはあくまでも参考である。本に載っている内容だけで飽きず、君の目で、耳で、実際の生物を確かめていってほしい。
恐ろしいと思っていた生物が、実は大人しかったりする例も、私が取材を進める中で発見した。是非実際の生物と触れあう際は、先入観を一度捨ててみてほしい……それが私の願いだ。
黒竜族との会合を終えた辺境の地より――デスレイン・ヴァンフォース。


――かたかたと、僅かに本が震え出す。否、本から動くきっかけを奪った今、そんな事が起こるはずがない。ルカは横から本を覗いていた視線を、上へ上へとずらす。
クレイは、魔物よりもずっと恐ろしいものを目の当たりにしたような顔をして、たかがページ一枚を見つめていた。赤い目は見開かれており、口元は震えている。顔色も悪い。ルカはクレイの顔を下から覗き込んだ。

「クレイ?どうしたの?」
「い、や……。少し……待っ、てくれ」

普通に話すことさえままならないクレイは、ぶるぶると変に振動する手で、半分程までページを飛ばした。大きく息を吸うと、再び本を見つめ直す。



悪魔と天使
悪魔は魔族の使いであり、天使は神の使いである。悪魔は漆黒の尖った羽を持ち、天使はガルーダのものと似た真っ白い羽を持つ。一般的に天使は天上に住まい、悪魔は魔界に住まうという認識だと思うが、それは間違いである。特に悪魔は、神魔戦争を終えた後、食べ物もなく廃れた魔界を去り、地上界へ移った。その証拠に、悪魔の集落が発見された報告をいくつも耳にしている。貴族を始めとした者達は、地上から悪魔を減らすために、五十年前から悪魔狩りを始めた。
元は悪魔は天使を抹殺するために魔族が産み出した種族である。そのため、天使の血に非常に敏感だ。天使は悪魔と出会ったら、すぐに逃げる必要があるだろう。神の血を引く貴族や一般人を襲った例は、ここ数年私の知る限りあまり耳にしない。



「――っ!」

クレイから、言葉にならない声が漏れた。彼はすぐに本を閉じると、胸元に手を当てた後にぎゅっと握り締める。額には冷たい汗をびっしょりとかいていた。



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テーマ「人外ファンタジー」
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