10
「……ルカ」
「んー?」
「一体、何が起きているんだ……?」
隣から発せられるクレイの声は、弱々しい……と言うより、どこか寂しそうだ。ピエロが刷り込まれた羽ペンでやんやと盛り上がる知人達を見て、ルカはすぐに納得した。自分の見えないところでわいわいと楽しげに会話していたら、ぽつんと一人置いていかれた気持ちになるのも無理はない。
「見てからのお楽しみ。……それ、ほんとに外れないの?試しに自分でやってみたら?」
「……分かった」
クレイは割れ物を扱うように、そっと手を本に重ねる。
「若造。貼り付けられた絵を剥がすようなイメージだ」
「はい」
ぶっきらぼうな老人の言葉が、クレイの耳にくぐもって入ってくる。絵を、剥がす。暗闇の世界に絵と右手を浮かべ、紙の端を持ち、ゆっくりと……。
「……レガハロ」
ぱたり。静かに、倒れ込むように、本が机の上に落ちた。あまりにも呆気ない結末に、小さな部屋は静寂に包まれる。
「取れた」
クレイの言葉は、文字数こそ少ないが、グラスに注いだらこぼれる程の喜びが含まれていた。心なしか表情も輝いているが、その違いはルカにしか認識出来なかった。
「良かったなクレイっ、これでもう前見えるぞ!」
「ああ」
ナッツがクレイへと駆け寄り、その肩を何度も叩く。ルームメイトの顔がちゃんと見られることに、クレイは心底ほっとした。
最後まで自分から離れようとしなかった本。クレイは、丁寧に閉じると表紙を見つめた。ぴんと張った紙といい、寮にしまってあったものに比べるとまだ新しい。
光と闇の生物対比百種――著者、デスレイン・ヴァンフォース。クレイは一通り眺めると、その本を開いた。
10