9


「己のイメージを、宿す……ねえ。やっぱり聞いたこともありませんよ」
「……どれ、見ておれ」

ルカが更に肩を落とすと、老人は傍らに置かれていた羽ペンを取った。そして、それを穴が空くほど見つめながら、小さく呟く。

「リスケルツ」

刹那。音沙汰もなかった羽ペンが、骨ばった老人の手から軽快に、「飛び出した」。

「わあっ……!」
「すげー!」
「ほ、本当に何の仕掛けもねーよな?これ」
「無論。今、街のあちこちで動き回っておるピエロとやらのイメージを宿した。実際は、わしが頭に描いておる絵を、こやつに擦り付けるイメージだがな」

そう言って、老人は一枚の白紙を小説の山から取り出し、机に置いた。ルームメイト三人は、新しい玩具を目の当たりにした子供のように、わらわらと老人の側に集う。誠は訝しげに見ていたが、漆黒の瞳からは溢れる好奇心は隠しきれない。
羽ペンは自分のペン先に黒いインクをつけると、ふわふわと浮遊して、真っ白い紙に文字を書いていく。その最中で、くるりとターンしたり、羽をぱたぱたと振ったり、動きがとてもユニークだ。書き終わると、そこには「みんな元気?」と躍動感溢れる字が大きく主張していた。

「元気!」

それに真っ先に答えたのは、にかっと太陽のように笑うナッツである。それを受け答えた羽ペンは、紙の空いている部分に、再び文字を書いた。

「悲しい時はぼくを思い出してね」
「うん!そうする!」
「すげーな、会話が成立したのか?」

誠は一連の流れを見守ると、感嘆の声を漏らした。頬杖をついて同じく見ていたルカは、再び老人へ向き直る。

「ふーん、あれってある程度の知能も宿るんですか?」
「……鍵魔法を産み出した賢人アヴァロンは、こう記す。マノで出来ている限り、全てのモノは『生きて』いる。この魔法はモノに命を与えるのではない。モノに動きのあるイメージを与える事により、動くきっかけをもたらしたに過ぎない……とな」
「なーるほど……モノが『生きて』いる。あまり聞かない言葉ですね。道理で誰も使わない、いや、使えない訳か……」

自分の知らない事を、魔法に組み込むことは出来ない。ルカは頷きながら、内心良いことを聞いたとほくそえんだ。



9

next→





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -