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「……ル、カ……?」
彼はゆっくりと、その頭をもたげる。くぐもった声は途切れ途切れで、浅い呼吸は今にも窒息してしまいそうな。
「なっ……!」
そのあまりにも予想外な光景に、ルカは頭も体も、石像のように凍り付く。
「ルカ、なのか……?頼む、助けてっくれ……っ」
クレイは必死に身動ぎ逃れようとするが、本棚の壁に張り付けにされて、指も、足の先も、胸板も、ぴくりとも動けない。苦痛の呻きが、クレイの口から僅かに漏れる。
「……油断、していたら……この様に……」
「この、お前って奴は……っ!!」
表情の見えない頭が、がっくりと項垂れる。ルカは、肺に入るだけの息を吸った。後ろからばたばたとルームメイト達が駆けて来る音が聞こえるが、そんなものはどうでも良かった。
「何をやってんのこのお馬鹿野郎おおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
クレイは襲われていた。……本に。
生物の棚に入っていた本なのだろう、そこが空っぽになっている。厚さから大きさまでありとあらゆる本が、体を開かせて、クレイを覆うようにして張り付いている。勿論顔面も例外ではない。
ルカは頭を抱えた。まったく、本人が真剣に困っているだけに、怒りようがないではないか。めらめらと身体中から沸き起こる怒りを背中に負いつつ、ルカは張り付いている本の一つに手をかけた。
「まったくもおおお!!こんな事で俺は焦ってリスク負って素見せたっていうのふざけないでよ!!?あーっクソむしろこれ恥ずかしいわこんな事で!!こんな事でっ!!」
「す……すまない……」
クレイの視界は本に覆われているが、相棒の憤怒は口調と肌から痛い程伝わってくる。この後どんな火の粉が飛んでくるか、次々と本が剥がれ体が軽くなっていく感触に、感謝をしつつ畏怖するクレイだった。
「でえっ!?なんだこれ!?」
「……これって、一応売り物なんだよね……?」
そこへ、誠達が駆け付けた。人間に本の群れが張り付いているという異様な出来事に、皆目を丸くして見つめている。ルカが色々な感情が混ざって真っ赤になっているのは、誰も触れない。
「……これは……。こんな事があるのか……」
「ぼーっとしてる暇があったらこっち手伝ってよ!!!」
地獄の門でも目の当たりにしたような顔をする老人に、ルカの怒声が飛んだ。
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