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「今……鍵魔法と言ったか?」
「え……あ」
ルカの笑みが僅かにひきつる。鍵魔法は、校長が得意げに語っていたように、その辺の人間が知っているような代物ではない。老人は分かりやすい疑いの眼差しを、ひたすらルカに注いでいる。ルカは笑顔を貼り直すと、直ぐ様口を開いた。
「あの、それは――」
――バンッ!!
「…………え?」
彼の声を遮る轟音と共に、ルカの足元がびりびりと痺れた。その振動の波は背中まで送られて、ぞくりと嫌な寒気を起こす。続いて、どさどさと何かが大量に落ちたような音が彼の耳に届いた。途端に、笑いの仮面はあっさりと剥がれ、深海の瞳は見開かれた。
「な……なんだ今の!?すげー音だったぞ……?」
「なんか、ぶつかったような音だったか?」
「喧嘩とかあったのかな……」
三人のルームメイトは、危険がないように固まって不安そうに見渡す。本の壁に囲まれた洋館は、今の状況では更に不気味で恐怖が増幅される。ルカの目の前にいた老人も、辺りを警戒しつつ眉を潜めている。
ライチの言葉を聞き、ルカはすぐに音の方向を確認した。彼の白い顔が、さっと青白くなる。
「……まさか」
心臓が、胸を突き破り外に出るかと思った。視界の端に映る本棚が、グニャリと歪んで見える。
拙い足取りで一歩踏み出すと、老人がルカの前に銅像の如く立ちふさがった。
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