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「うわわっ!?」

ライチは咄嗟に飛び退く。だが、「それ」は、何事もなかったかのようにライチの横を通り過ぎる。
数秒、皆が皆、喉元に競り上がった声を寸でのところで詰まらせていた。ルカは顎に手を添えながら興味深そうに見つめ、誠は本棚の壁に張り付き金魚のようにパクパクと口を開けて、ナッツはビームが出ていると錯覚しそうな程に両目を輝かせて、ライチはぽかんと間抜けに口と目を開いて。
そして、誠とナッツは顔を突き合わせると、その不可思議なものを二度見した。

「なあなあなあ、マコトっ。あれなんだあれっすっげーっ見たことない!」
「俺だってねーよ!……マジ、嘘だろ……」

本が、飛んでいる。決して、浮いているのではない。

「鳥みたい……」

ライチが呆けた声を出す。
ぱさぱさ、ぱさぱさ。その本は、真ん中を境にその体を広げて、ページを翼のように羽ばたかせて飛んでいたのだ。その動きはイキイキとしており、本当に一瞬鳥と見間違う恐れすらある。

「『操作』……?いや、『変化』?それとも噂の鍵魔法だったりして……?」

ルカは傍らで、「本鳥」の正体を小さく早口で呟いて考察する。うーん、と唸ってみるも、なかなかこれといった答えは浮かばない。彼は相棒が向かって行った方向に、ちらりと目を向ける。是非ともあの仏頂面の反応が見たかったと、ルカは送り出した事を少しだけ後悔した。

「そこの若造」
「はい?」

ルカは咄嗟に笑顔を貼り付けて、にこやかに振り返る。むっとへの字に口を曲げた、頭の固そうな老人がいた。糸のように細い白髪は後ろに流してあり、顔にある皺の数からかなりの歳であることが予想されるが、背筋はピンとしている。その手には、先程飛び去って行った本が収められていた。



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