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「あっ……やしいよね〜、あの先生」

あっけらかんと、頭の後ろに腕を回してルカが言った。声のボリュームもいつも通りで、クレイはどきりと心臓が大きく動いて、口から出そうな勢いだった。老若男女様々な人々が交う現在地を何度も見渡して、やっとの思いで胸を撫で下ろす。ルカを鋭く睨み付けることも忘れない。

「おい……ルカ。近くにいたら」
「だーってクレイもそう思わなかった?仮にもエリートが集う学園にあんなボサボサ先生を採用するなんて……絶対裏がある」

キラリとルカの青い瞳が光った。クレイは呆れたように息を吐き、前にいるルームメイト三人の様子を伺う。ライチはピエロからキャットシーの形をした風船をもらい、誠はぐったりと項垂れており、ナッツは誠の腕を子供のように引っ張ってあちこち指を指している。どうやら先程の恐怖は払拭されたようで、クレイは内心ほっとした。
すると、安心しきったクレイの肩に鈍い衝撃が走った。慌てて彼はその方向に、律儀に頭を下げる。

「あ、すみませ――」

ぬっ、と。ぶつかった相手の拳が、クレイの目前に差し出された。しかもそれは、血のように赤い手袋がはめられている。そっと顔を上げてみると、ドッグリィ形の風船越しに、にっこりスマイルのメイクが施された細い目と視線がかち合った。クレイは真っ赤な風船を受け取りつつ、みるみる頬が風船と同じ色になっていくのを感じた。ピエロは見えなくなるまで陽気に笑いながら手を振っていた。

「ブッ、ハハハハハハ!!!ヒーッ腹、腹がいた……!は、初めて見た……ピエロにぶつかってちょー真面目にあ、すみません。アハハハハあいったぁ!!」
「黙れ……!」

隣で人目も気にせず大爆笑をするルカには、半ば照れ隠しで横から足に蹴りを入れておいた。しかし、なんだかんだ言いつつ、勿体なかったので風船は離さなかった。



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