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「はー……すごかったなあ……」
「うん、すっげー入学式だった!なんか、こう、どーんって感じで!」

ぽーっと放心状態でどこかの世界に旅立っている誠と、興奮したように大きく手を広げるナッツの横で、クレイはその様子を微笑ましく(と言っても、端から見たら無表情なのだが)見守っていた。

アルティマニー学園の入学式と始業式は、正に豪華絢爛の四字が相応しいものだった。空中に浮かぶ美しい花花が入学生の手元に渡る所から始まり、汚れひとつないテーブルクロスが敷かれた長机にクラスごとに座り、何故か用意されていた高級感溢れる茶菓子と紅茶を片手に進行する形式だった。昼食時間を取っていた理由が、クレイはそこでようやく分かった。
誠はその旨さに、クレイに記憶石を貸してもらうように土下座でもする勢いで頼み込み、こっそり覚えたてのそれにいくつかスコーン等を入れて腕に通していた。妹達の土産にするのだという。

学園長の話は驚く程短かった。まさか、涙ぐみながらの「諸君!思いやる心を持て!」で終わるとは、ホールにいた全ての入学生が予想出来なかっただろう。

そして三人は、そんな式も終わり、教室へと向かっていた。

「あれ?ライチはどこ行ったんだ?」
「トイレだってよ。って言ってもこの校舎変に広いから、迷わねーか心配だな」

あちこち見渡すナッツに、誠は未だにどこか明後日の方向を向きつつ答える。
アルティマニー学園の廊下は、壁一面が煉瓦詰めだ。床にはなんとふかふかの赤い絨毯が敷かれていた。更に驚くべきは、壁の上方にある電灯。繊細な技術で作られたであろう、様々な魔物のガラス細工が両脇で向かい合い、淡い明かりが灯って廊下を照らしていた。

「あれがドッグリィだろ?あっちがキャットシー。それで、あれがワイバーン、トリコカス、バッハロング……」
「お前詳しいな……あんなの聞いた事もねーぞ。犬とか猫とかとも違うしな……」

ナッツはそれぞれ指を差しながら、次々に名前を当てていく。入学生であるはずのナッツの知識量には、任務で魔物をよく見るクレイも感心していた。中等部以下で習ったとしても、ここまで的確にすらすらと言える人物は貴重だろう。誠からすれば、順に犬、猫、ワニ、尾に蛇が生えたダチョウ、胴体が長い牛にしか見えない。

「マコトは、犬や猫を知っているのか?」
「お?おう。……むしろそっちのが多かったくらいだ」

クレイからの質問に、誠は少し身構える。普段多くを話さない彼からの質問は重みを感じるからだ。間をおいてぽつりと付け加えれば、誠の肩ががっしりと掴まれた。

「マコト、動物族見たことあるのか!?」

その目はまるで、著名人に詰め掛けるインタビュアーのよう。
デジャヴな展開。誠はこの時点で軽い疲労を感じた。

「ま、まあ……」
「すげーっ!俺動物族見るの、昔の夢だったんだ!いいなーマコトっ、俺本でしか見たことない!」
「本ー?なんかお前のイメージと全然合わねーんだけど……どっちかっていうと、その辺の山爆走してそうなのに」

渋い顔をする誠に、ナッツの肩が僅かに揺れる。そっと誠から手を離すと、彼にしては珍しく、苦く笑った。太陽の笑顔に雲がかかる。

「うん……俺、ちっちゃい頃、家から出れなかったんだ。家にはいっぱい本があったからたくさん読んでた!魔物とか動物族とか、そういうのしか覚えてないけど……」
「出れなかったぁ!?おいおい、どんな家庭だよ……」
「あ、でも、違うぞ!別に出ようと思えば多分出れたんだ。けど、なんていうか……うーん…………よく分からないや」
「結論それかよ!!」

難しい顔をして考え込んだナッツに、誠の鋭いツッコミが入る。
その横で、クレイはひとつの仮説を立てていた。しかし、それを本人に訊くのはあまりにも無礼だったので、黙っておく事に決めた。




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