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セシルは歩き出そうとした足を止めて、振り返る。ルカの変わった様子をよく見ようと、目を凝らして瞬きをした。
しかしその時には、ルカの姿はどこにもなかった。彼が、まるで夢か幻であったかのように。
「……セシル様?どうかしたんですか?」
セシルは我に返った。傍らにいる小柄な人影を見下ろす。潤みがちな瞳が心配そうに己を見つめ、彼はひとつの安心感を覚えた。セシルにとっての日常が、帰ってきた。
「何でもないよ。……人に会った」
「えっ!?あの、それ、何でもなくないんじゃ……」
矛盾した台詞を平然と吐くセシルに、人影はおずおずと意見する。それを見る彼の目は穏やかだった。
悪戯好きな風が、元気よく広場を吹き抜けた。耳元で二人をケタケタと笑っているようにも聞こえた。
「面白い人だった。また会いたい。サボって正解」
「それは駄目ですっ。何とか記憶石でセシル様を隣に映したから良かったですけど、わたし……心臓が縮むかと思って……」
「冗談。ほら、行くよ」
「は、はい!」
マイペースに歩き始めるセシルを、人影は慌てて追いかける。その指には、セシルの髪と同じ色をした記憶石が埋め込まれた指輪があった。
「貴族じゃなければなぁ……」
一方で、校舎脇の日陰にてこぼれ落ちた言の葉は、あっという間に風にさらわれた。
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