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「敵だ……てめえは俺の敵だ……」

誠はうらめしそうにクレイを睨みながら、乱暴にフォークで肉を刺しては、その銀色の先端を噛み千切らんばかりの迫力で口に含める。クレイは何が起こったのかよく分からず、首を捻りながら取り皿におかわりのサラダを乗せた。

「でもさー女顔クン、クレイが言ってる事は本当だよ?料理出される時、クレイのは肉なしにしてるもんね」
「誰が女顔だ!!」
「あっごーめんごめん、俺人の名前覚えるの苦手だからさー。許して?」

野生の目付きになった誠に、ルカはかわいらしく(?)片目を瞑って謝る(いや、からかっているようにも見える)。それにまた誠が食ってかかるところだったが、そろりそろりと、謙虚に小さく手が上がった。

「あの、ちょっといいかな?」

ライチだった。クレイとルカの顔色を伺うように見つめている。

「二人の話聞いてると、まるで一緒に住んでるように聞こえるんだけど……兄弟、でもなさそうだし……どんな関係なの?」

体の奥底で、ほんの少しクレイの心臓が跳ねた。ルカとクレイは名字も違う、髪の色も目の色も違う、体格も違う、けれどもギルドから来たとは言えない。彼が目を伏せて渋っていると、その首に白く細い片腕が巻き付いた。

「クレイとは家族だよ。もうずーっとずーっと一緒の、俺の相棒ってやつ?」

クレイは直ぐ様ルカへと視線を向けた。ルカの笑顔は、数刻前とは何も変わりばえがない。
クレイの思考は、信じられない思いで隙間なく埋め尽くされた。友達でもない、親友でもない、家族。――――嘘が得意なルカが、まだ彼の中では信用もままならないはずのルームメイトに、本当の事を言ったからだった。

「まあ、血は繋がってないってか、養子とかともちょーっと違う感じなんだけどね?もう十年ちょいも一緒だから、お互い考えてる事分かったりしちゃうの」
「……すっげー」

呆けたようなナッツの声が、クレイの隣から聞こえた。元からぱっちり開いた目が更に開けられている。

「マコトは妹達がいて料理うまくて、クレイとルカは大人のオーラで何年も仲良しで……すげえ。みんなすごすぎだ……かっこいい……」
「うん。すごいね。僕なんかそういうのまったくない、普通の人間だから……羨ましいよ」

ナッツに便乗して、ライチも両手を合わせるとはにかむように笑う。普通だと思っていたクレイとルカは驚いて目線を見合わせ、誠は先程の怒りで赤くなっていた頬がもっと赤くなった。

「ばっ、馬鹿を言え!俺はそれが普通だってーの!!おら食い終わったならさっさと片付けろ馬鹿!」
「いだっ!?なんでそこで殴るんだよマコトー!」
「うっせえ!」

ガチャガチャとやけに大きく音を鳴らして皿を運ぶ、耳まで赤い後ろ姿に、ルカとライチは思わず噴き出してしまった。クレイとナッツは、最後まで誠の行動の意味が分からず仕舞いだった。





「あっ、そうだ、みんなの記憶石届いてたみたいだよ」

キッチンで皿洗いをしながら、ぶつぶつと呪いのように小言を呟く誠。……は隅に置いておいて、ライチは思い出したようにぱちんと手を叩いた。

「マジ?タンスに服しまっておこうかな」
「なあなあ!俺ボール持ってきたんだ!誰か一緒に遊ばないか?」
「まず始業式終わってからの方が良いと思うよ、ナッツ君……」
「……おい」

わいわいと盛り上がるリビングに、皿を拭きながら誠が介入した。どうしたことか、誠と周りの温度差が明らかに激しかった。四人共誠を注目し、その場は水を打ったように静かになる。

「記憶石……って、何だ?」

途端に、氷河期が訪れた。

「……え?」

居るだけで凍り付きそうな沈黙を破ったのは、ライチだった。しかし、その先の言葉は喉につっ掛かってでもいるのか、口をぱくぱくと動かすだけで何も紡がれない。

「じょ、ジョーダンだよねー!?だって世界の常識中の常識だしー……?」
「いや、知らねー」
「店にも売っているはず、だが」
「それ初耳」
「マコト……ほっほんとか?ほんとのほんとに言ってるのか?」
「…………おう」

あのナッツにまで、肩を掴まれて心配そうな顔をさせた。誠の勢いと自信がズブズブと底無し沼に沈んでいく。穴があったら入りたいとは、正にこの事だろう。

「……しょーがないなあ。このルカさんが教えてあげるから、記憶石知らないなんて二度と言わないでよね?」

呆れ返り肩を竦めた救世主はルカだ。上から目線の鼻につく態度は、この際目を瞑るべきだろう。誠は突き出す準備万端の震える拳を、力一杯握り締めた。

「おお……頼んだ」
「えー、そこはお願いしますルカ様って言わないと」
「ぶっ飛ばすぞてめえ!!!」
「うわぁっマコト君落ち着いてー!!」

結局クレイが誠を取り押さえて、騒ぎを落ち着かせるだけで五分かかった。
ライチが胃薬を飲み始める日も近いかもしれない。



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